うつ病やパニック症、パーソナリティ障害などの精神疾患を対象とする医学分野を精神医学とよびます。
この精神医学の中に精神病理学という分野が存在します。
精神病理学とは、異常な精神現象を体系的に分類・整理し、異常な精神現象の発生する心理学的な機序を考察することを目的としたものです。
各種精神疾患は、様々な異常な精神現象・症状の組合せによって構成されている定義されています。
そこで、精神医学は主に「治療・支援」のための学問として、精神病理学はより基本的な異常・症状に関する分野であり、主に「診断」のための学問として、それぞれ確立されています。
日本には、精神病理学の研究を専門とする、日本精神病理学会があります。
2017年は10月に年次大会が開催されています。
歴史的には、精神病理学は現在のような精神疾患分類の体系が確立された19世紀の終わりごろにスタートし、20世紀の前半ころに確立されました。
初期の精神病理学では、ブロイラーやクレペリンなどの精神科医が活躍しました。
ブロイラーはスイスの精神科医であり、統合失調症(当時の精神分裂病)の概念の創始者を創始したことで有名です。
ブロイラーは統合失調症の症状を基本症状と副次症状とに区分し、疾患過程から直接生じる一次性症状と患者の心理が疾患過程に反応して生じる二次性症状とに分類しました。
クレペリンはドイツの精神科医であり、当時、まだ明確な区別がなされていなかった統合失調症と双極性障害を異なる疾患として確立したことで有名です。
また、作業検査として有名な内田-クレペリン精神作業検査の開発にも携わっています。
精神病理学が確立された当初、まだ利用できる各種の検査方法が不足していたため、長期にわたる詳細な臨床観察のみが、精神疾患の診断のための手がかりとなっていました。
ブロイラーやクレペリンもこのような状況の中で、試行錯誤を繰り返しながら研究を続けていました。そして、20世紀に入り、精神病理学がより精度の高い学問となる過程において、ヤスパースが活躍するようになります。
ヤスパースはドイツの精神科医で哲学者でもあります。
現象学的な精神病理学の専門家であるヤスパースは『精神病理学総論』という専門書を執筆しました。
この本は精神病理学の古典として、非常に有名です。
その後、20世紀の中頃になると、精神病理学は一層の成熟の時期を迎えます。
この時期には、精神病理学は精神疾患の発病の心理学的機序(メカニズム)を解明することに研究の焦点を当てるようになりました。
これ以前の精神病理学は、どちらかというと現象学や哲学的な要素を重視してきましたが、これ以降は実存主義的な哲学を中心とした学問へと変化していきました。
この成熟の時期には、ビンスワンガーやミンコフスキーなどが代表的な精神病理学の研究者として活躍しています。
ビンスワンガーはスイスの精神科医であり、現存在分析の創始者です。
フロイトや哲学者のフッサール、ハイデッガーから影響を受け、クライエントとセラピストは世界を共有するパートナーとして捉えるという考えに至っています。
また、セラピストはクライエントの言動を解釈するというよりも、クライエントの世界をクライエントの観点から理解することを強調しています。ミンコフスキーはフランスの哲学者であり、精神科医でもあります。
ミンコフスキーは、ブロイラーの下で統合失調症について研究を実施しました。
その過程でブロイラーが統合失調症の中核概念とした「自閉」という要素を下敷きにしつつ、そこにベルグソンの哲学の要素を加え、統合失調症を独自の立場から捉えなおしています。
ミンコフスキーは「現実との生ける接触の喪失」が統合失調症の基本的かつ重要な問題であると定義しています。
このように、精神病理学の確立と発展には、数多くの著名な精神科医が関わっています。また、哲学者がその専門性を発揮していることも特徴的であるといえるでしょう。
これらの精神科医らの研究成果が、現在の我々の精神衛生に多大な影響を与えているといえます。
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この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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