世界的な科学研究の成果に対いて授与されるものに、ノーベル賞があります。
毎年、様々な分野の研究成果に対して、ノーベル賞が授与されています。
ノーベル賞には「心理学賞」というものはありませんが、そのパロディであるイグノーベル賞には心理学賞があり、日本人の心理学者も受賞したことがあります。
また、イグノーベル賞は科学研究以外に、カラオケやたまごっち、バウリンガルといった商品の発明に対して贈られる場合もあります。
カラオケ、たまごっち、バウリンガルがいずれも日本の企業が開発した商品であるように、賞が創設されて以来、日本は繰り返しイグノーベル賞を受賞しており、イグノーベル賞常連国になっています。
イグノーベル賞の選考対象は5000を超える研究成果や研究業績であり、書類選考は本家のノーベル賞受賞者を含む、アメリカのハーバード大学やマサチューセッツ工科大学の教授ら複数の選考委員会の審査を経て行われています。
日本でイグノーベル賞の心理学部門を受賞した研究には、学習心理学(行動分析学)に関するものがあります。
1995年のイグノーベル賞の心理学部門を受賞したのは慶応義塾大学渡辺茂先生・坂本淳子先生・脇田真清先生による研究成果でした。
授賞理由は「ハトを訓練してピカソの絵とモネの絵を区別させることに成功したことに対して」となっています。
ハトやラットなどの動物に新しい行動を獲得させることができるというのが、学習心理学(行動分析学)の理論です。
エサを強化子とすることで、様々な行動の獲得が可能となるわけですが、般化や弁別という少し複雑な行動レパートリーも獲得することができます。
般化とは、たとえば、ハトにグリーンのライトが点灯するボタンをつついた時だけエサを提示するという訓練を実施します。
そして、この行動が獲得された後、訓練時のグリーンではなく、少しブルーに近い色彩のボタンを出現させます。
厳密にいうと、ボタンの色はグリーンではないので、訓練とは異なるため、ハトはボタンをつつくかどうか躊躇しますが、似ている色なので、最終的にはボタンをつつき、エサを獲得します。
この要領で、本来のグリーンの色と似てはいるものの、よりブルーに近い色のライトのボタンを提示します。
どの色でも一定量のエサが提示されるので、ハトは最初の訓練時のグリーンではなくても、ボタンをつつくという行動を起こします。
このように、当初獲得した行動に対して「似た刺激」の提示にも反応することを般化とよびます。
そして、般化とは逆に特定の刺激に対して、特定の行動を結び付けるのが弁別です。
たとえば、グリーンのボタンをつついた時だけエサを提示し、レッドのボタンをつついた時には何も提示されないという訓練を続けます。
すると、ハトはグリーンの時だけボタンをつつき、レッドの時はボタンをつつかないようになります。
この弁別に関する訓練において、ハトがエサを獲得するきっかけとなる刺激はボタンのライトだけではなく、ピカソの絵とモネの絵でも可能であるということが判明し、イグノーベル賞の受賞となったわけです。
厳密には、片方の絵が提示された際にはエサが提示され、もう片方の絵が提示された場合にはエサが提示されないという訓練を繰り返されたハトが、ピカソやモネの絵のタッチを学習したということになります。
ハトは視覚がカラーであるという特徴があり、元々、色を識別することができます。
それだけなら、動物としての能力というだけですが、絵のタッチや構成についても、エサとの対提示によって学習させることができるというのは大きな発見であったといえるでしょう。
このように、イグノーベル賞の研究は面白さを含むものの、科学的には非常に高度で、新しい発見を含むものとなっています。
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この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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