心理学の研究成果には、日本(日本人)が主体となって実施されたものがあります。
今回は、その中から、いくつかご紹介したいと思います。
アージ理論とは、心理学者の戸田正直先生が1992年に提唱した人間の感情に関する理論です。
アージとは「駆り立てる」や「衝動性」というような意味があります。
一般的に感情は非合理的で、反知性的なものとして認識されることが多く、カウンセリング・メンタルヘルスにおいても、感情に振り回される状態は「よくない状態」であり、治療・支援によって改善すべき対象となることが多いです。
認知行動療法などの心理療法は、感情よりも認知に注目し、冷静に自分の感情を捉えるというアプローチを取ることがあります。
しかし、アージ理論では生物としての進化や自然環境における適応という観点から、感情の必要性について論じています。
つまり、感情が現在の人間にあるのは、何か合理的な機能が感情にはあるからであるという前提で、感情について検討しようとするものです。
このように、自然環境に適応するために進化してきた「心のソフトウェア」として感情を捉え、さらに感情を1つの大きなシステムとして捉えるのがアージ理論なのです。
アージ理論では、感情をアージ・システム(urge system)とよび、怒りアージや恐れアージ等の感情的なアージを中心に生理的アージや認知アージなどの分類があります。
生理心理学では、味覚に関する研究も実施されています。
味覚は舌の粘膜にある味蕾という器官によって受容されて感じることができます。
味蕾には味細胞とよばれる細胞があり、その細胞の表面には味覚受容体があります。
飲食物に含まれる分子が味覚受容体と結合することで活性化し、味の感覚情報が脳に伝えられます。
味覚には塩味・甘味・酸味・苦味・うま味という5種類があり、これらは基本味とよばれます。
これらの基本味ごとに別々の味覚受容体が存在し、各受容体の変化の程度によって飲食物の味が決定されると考えられています。
なお、辛味は味細胞よって受容されるのではなく、舌にある粘膜内の神経線維が痛みを感じることで発生する痛覚の一種であり、味覚とは明確に区別されます。
実は、5種類の味のうち、うま味は日本人が発見・提唱したものなのです。
うま味は東京帝国大学(現在の東京大学)の池田菊苗先生が、1908年にだし昆布の中に含まれる物質から発見したもので、最初に発見されたうま味物質はグルタミン酸という物質でした。
日本では料理に出汁を使うことが多く、実は日常生活の中にうま味が溢れているという環境がありました。
そのため、日本では塩味や酸味とは別に、日常生活でうま味が料理に足りているか、いないかを敏感に感じることができるという特徴がありました。
これが、日本の学者が世界に先駆けて、うま味物質を発見するきっかけとなったのです。
その後、うま味物質に関する研究が進められ、1913年には小玉新太郎先生が鰹節から抽出したイノシン酸を、1957年には国中明先生が椎茸の中から抽出したグアニル酸を、それぞれ発見しています。
当初、これらのうま味の発見について、海外では疑いの目でみられることも多かったです。
なぜなら、日本と異なり、海外の料理にはうま味という概念がなく、塩味や酸味の変化形としか考えられていなかったからです。
しかし、2000年に舌の味蕾という部分の細胞にグルタミン酸受容体が発見されたことで、うま味の実在が世界的で広く認知されるようになりました。
また、グルタミン酸とイノシン酸という2つのうまみ成分が混ざると、さらにうま味の強さが数倍に強化され、より料理が美味しく感じられるということも判明しています。
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