「精神物理学」と聞いても、あまりピンとこないという方も多いかと思います。実際に、現在の大学・大学院の心理学専攻などにおいても「精神物理学」という名称で講義・授業が行われているところは、あまりないのではないでしょうか。
しかし、この精神物理学は非常に重要な要素として、現在の心理学・カウンセリング・メンタルへルスに多大な影響を与えています。
精神物理学は心理物理学ともよばれ、フェヒナーが心と身体との間の関数的関係についての精密科学として提唱したものです。
フェヒナーは精神物理学を「対象とする刺激の強さ(I)と感覚の大きさの判断(R)の関係性を、数学的(関数)」に探ることを目的としています。
当初、フェヒナーは最も内的な(目には見えない)人間の心理的過程を精神物理学的に探ろうとしていました。
しかし、フェヒナーが研究をしていた1800代後半には、まだ人間の生理的過程を直接計測することができず、あまり具体的な進展がない状況でした。
そのため、より外的(目に見える)人間の心理的過程を探ることに重点が置かれるようになり、その中で、調整法・極限法・恒常法・マグニチュード推定法などの精神物理学的な方法が確立されていきました。
実はこれらの手法は心理アセスメントで利用される質問紙法や投影法などの手法の元となっているものです。
また、より身近なもので言えば、アンケート調査なども、これらの精神物理学的な方法に基づいて作られています。
精神物理学は「物理」という名前がついているように、人間の心を数理的な法則で捉えていくものです。
そのため、精神物理学には法則や定理が存在します。
代表的な法則・定理の1つとして、フェヒナーの法則があります。
フェヒナーの法則は、強度の異なる2つの刺激がある場合、その2つの強度の差を数学的に計算することで、間接的に尺度を作成することができるという考え方です。
また、このフェヒナーの法則と同じく、精神物理学の代表的な法則・定理として有名なものに、ウェーバーの法則があります。
これは、ウェーバーが提唱した弁別閾に関する経験的な法則です。
たとえば、目隠しをした状態で、手の上に50gの重りを乗せたとしましょう。
続いて、一旦、その50gの重りを手の上から外し、代わりに51gの重りを乗せます。
重りの重さはわずか1gの差しかないので、おそらく、多くの人は1番目の重りと2番目の重りの「重さ」に対して差を感じとる(弁別)することは難しいでしょう。
では、最初に50gの重り、次いで52gではどうでしょうか。
このように、少しずつ1番目と2番目の重りの重さの「差」を大きくしていき「どの段階で、違いが分かるか?」を確認していきます。
もし、50gと53gで差があると認識できた場合、この3gの差のことを丁度可知差異とよびます。
つまり、人間にとって、この3g以上の差が心理的に認識可能な最小の重さであるということです。
そして、ウェーバーの法則では、人間が感じ取れる「差」は、刺激量(重りの重さ:I)に比例して変化するとされています。
たとえば、50gと比べて53gで弁別が可能な場合、重りが100gの場合には、106gではじめて差が弁別できるということです。
法則・定理の確立の順番としては、まず、ウェーバーの法則が先にあり、その影響を受けて、フェヒナーの法則が考案されました(ウェーバーの法則が確立された時点では、まだ「精神物理学」という用語はありませんでした。
私たちは、このように知覚する感覚の差から、世の中(社会)を理解・把握しているわけですが、あまりにも小さな「差」は認識することができません。
私たち人間が「どれくらいの差」なら認識できるのかということが、そのまま、私たちが「どのくらい細かく世の中(社会)を捉えることができるのか?」ということを現しているのです。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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