心理学では、主に発達心理学の分野で、若者の心理について研究しています。
最近、少子化や晩婚化という社会的な傾向の中で、若者の恋愛離れというテーマが論じられることが多くなっています。
発達心理学では、青年期から成人初期(18歳くらい)に至る発達段階において、親密な他者との対人関係の構築が重要な課題として設定されています。
この親密な対人関係の中に“恋愛”や“恋人関係”の構築が含まれると考えられます。
恋愛は当事者同士の問題であり、当時者がこういった対人関係をどう認知し、何を望んでいるのかということを理解する必要があります。
そのため「若者が恋愛に興味がない」という結論よりも「なぜ、興味がなく、興味がないということが若者にとって、どんな意味を持っているのか?」ということを科学的に明らかにする必要があるといえるでしょう。
実際に「若者の恋愛離れ」というテーマには、具体的な数理的なデータよりも、直感や確認できる範囲内での“自分の周囲の人達の状況”に基づくものであるといえます。
そこで、当事者にとってのメリット・デメリットという観点から、実際に何が起きているのかをクローズ・アップしていくことが重要です。
そこで、実際に大学生を対象とした調査研究が実施されています。調査は全国の大学生1343人を対象とし、①現在、恋人がいる、②現在、恋人がいなくて、欲しいと思っている、③現在、恋人がいなくて、欲しいと思わない、という3つのカテゴリーのうち、どれに該当するかを調べています。
この研究の結果、以下のようなことが判明しています。
(1)恋愛に関心・興味のない若者は全体の約20%程度存在する。
(2)恋愛に関心・興味のない若者に明確な男女差はない。
(3)恋人がいない若者の大半は“欲しい”とは思っている。
(4)過去と現在の“若者の恋愛離れ”の程度の差を比較するのは困難である。
また、別の研究において、全国の大学生1532名を対象とした、発達課題と恋愛に関する検証が実施されています。
まずは、この研究でも、若者全体に占める“恋愛離れ”の割合が検討されており、以下の通りになっています。
① 現在、恋人がいる:506名(33%)
② 現在、恋人がいなくて欲しいと思っている:717名(47%)
③ 現在、恋人がいなくて欲しいと思っていない:307名(20%)
やはりここでも“恋愛離れ”の割合や20%程度ということであり、この結果は他の研究やアンケート調査とも一致しています。
そして、この“恋愛離れ”のカテゴリーに含まれる若者に「なぜ、恋人を欲しいと思っていないのか?」を自由記述で回答させた結果、各回答は以下のようなまとまりとなりました。
1) 恋愛は負担だし、現在の生活は充実しているから(21%)
2) 恋愛に対する自信がないから(28%)
3) 恋人は自然にできるだろうと考えているから(27%)
4) 過去の恋愛経験を引きずっているから(16%)
5) 特に明確な理由はない(8%)
この結果から【恋愛に興味・関心がない】理由は5つに分類でき、特に多い理由は【自信のなさ】と【自然にできるだろう】というものでした。
また【恋愛離れ】のグループと【恋人がいる・いないけど欲しい】グループとを比較すると、エリクソンの発達課題における【恋愛離れ】のグループの方が基本的信頼感・自律性・主体性・勤勉性・親密性が低いものの、アイデンティティ達成については、差はないということが判明しています。
エリクソンの人格発達論によると、基本的信頼感は乳幼児前期、自律性は乳幼児後期、主体性は幼児期、勤勉性は児童期、アイデンティティ達成は青年期、親密性は成人初期の発達課題であるとされています。
つまり、青年期における発達課題であるアイデンティティ達成という部分以外が【恋愛に興味・関心のない大学生】において低い傾向にあり、それは青年期以前の過去の発達課題と、現在もしくは近未来の成人初期の発達課題であるということが判明したわけです。
このように、世間一般の興味・関心や流行などと実情との差を明確化するのも心理学研究の役割であると同時に、より深い考察を世間に伝えるのも心理学研究の果たすべき役割であるといえるでしょう。
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この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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