近年、問題となっているハラスメントとは心理学的に考えると、どのようなものなのでしょうか。
ハラスメントには、パワハラ・セクハラ・アカハラ・マタハラ・アルハラなどの様々な種類がありますが、これらのハラスメントをまとめて「モラル・ハラスメント(モラハラ)」と定義することが心理学、特に産業・組織心理学の最近の傾向となっています。
結局、どんなハラスメントも“モラルを欠いた発言や行為”であるという意味では同じなのです。
モラハラをもう少し学術的に述べれば「対人関係上の問題として、何らかの力関係において優位にある者が、自分より劣位にある者に対して、精神的な苦痛を与えるような行為の総称」と定義されます。
また、モラハラをしている側が「これは教育・指導の一環だ」という認識で行っていたとしても、その目的・内容・方法などが、客観的に必要な範囲を超えていたり、目的に照らし合わせて正当ではないと判断されたりする場合は、それはモラハラであるということになります。
そして、前述の「力関係において優位な立場の者」という考え方についても、単に年上・上司・先生などだけではなく、有している情報の量、専門性、スキル、人脈(人的ネットワーク)などが“優位”なのであれば、そこにはモラハラが発生する要素があるといえます。
そのため、例えば、専門性の高いスキルを持つ部下が、上司に対して『そんなことも知らないし、できないんですか?そんなんで、よく平気で課長をやってられますね!!』と発言したとしたら、それは「部画が上司に対してモラハラをした」ということになります。
モラハラが及ぼす問題は場合によっては、身体的な怪我などに発展するケースもありますが、そこまで行くと暴行や傷害といった事件性を帯びたものになってしまいます。
実際に、モラハラの形が「身体的な攻撃」である割合は全体の数パーセント程度であり、メンタルへルスやそれに付随したソーシャルな問題の方がはるかに多いということが判明しています。
では、モラハラという社会的な問題行動を“する側”には、どのような心理的特徴があるのでしょうか。
現時点で「ハラスメント障害」や「モラハラ症」などのように、モラハラをするという「症状」を示すという特徴を持つ精神疾患はありません。
ですが、モラハラという行為をパーソナリティや発達、感情の調整機能という観点から捉えることで、モラハラをしてしまいやすい人、というものが見えてきます。
ただし、後述するケースは「モラハラをしたい」と積極的に思っているというよりは、むしろ既にメンタルヘルスに問題のある人が、他者とのコミュニケーションが上手くできなかった結果として「モラハラになってしまった」というように捉えられる、というものです。
たとえば、パーソナリティ障害もしくは、その傾向を持つケース、自閉スペクトラム症もしくは、その傾向を持つケース、感情調節障害のケースなども考えられます。
モラハラは特に産業場面において問題視されており、厚労省が対策に乗り出しています。
モラハラが産業場面に及ぼす悪影響には、職場の雰囲気の悪化・労働生産性の低下・企業イメージの低下・訴訟などによる金銭的負担・休職や離職による人材不足などがあります。
モラハラ被害に合った方がメンタル不調になり、治療・支援が必要になるというケースも当然ありますが、逆にモラハラを“する側”の方が治療・支援が必要なケースも多いと考えられます。
自分の性格のことで悩んでいる、他人と上手くコミュニケーションが取れない(空気が読めない)ことで“生きづらさ”を感じている、怒りの感情をコントロールできない、などに心当たりがある人もいるのではないでしょうか。
そういったケースは、実は“モラハラ加害者予備軍”の可能性があります。このような「予備軍」を「予備」の段階で治療・支援につなげることもメンタルヘルスにおいて非常に重要であると考えられます。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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