東日本大震災から10年以上(※本コラム執筆時点)が経過しましたが、まだ復興活動は継続する必要性がある状況が続いています。
では、日本が経験した未曽有の災害の1つである東日本大震災と心理学には、どのような関係があるのでしょうか。
まず、心理学の分野の1つとして、災害心理学というものがあります。
災害に対する人間の心理的な反応や災害時の行動、さらには災害の社会的な影響を研究する領域を指します。
ここでいう災害とは、地震・津波・火災・ガス爆発のような大事故など、主として規模が大きく被害者の多い災害を想定しています。
しかし、規模が小さい、または被害者が少なかったとしても、被害者の精神的な打撃は無視できないという意見もあり、必ずしも規模や被害者数のみを基準に研究対象になるかどうかを決定しているわけではありません。
災害心理学の基本的な立場として、人間的な原因による災害の発生(例:失火、ガス事故など)を可能な限り防ぐとともに、その発生が防げないような天災であっても、人間的な要因による被害の拡大を最小限にくい止めることを目的としています。
災害に関わる人間の行動や反応の法則を発見するとともに、そのコントロールが研究における重要なキーワードとなっています。
また,建築学や社会学などの他の学問領域からの知見を必要とすることが多く、災害心理学は学際的な研究も多くなされています。
さらに、災害の被害者およびその家族の精神的な打撃がどのようなものなのか、また、それをどのように回復していくかは、主に臨床的な立場から検討されています。
また、心理的回復に対する家族や友人、地域社会まで含めた周囲の人々からのソーシャル・サポートの影響、ボランティアの役割など、検討すべき課題は多いです。
社会心理学の立場からは、災害時における避難行動・パニックの発生と制御の問題が盛んに検討されています。
災害時のマスコミの報道・被災地での情報、さらには地震予知のような災害情報がどのように伝達され、人々に理解されているかについての研究も進められています。
災害時の人々の行動には、日常の行動パターンや態度が影響しているという考え方から、集合行動・人々の災害観・災害に対する備え・リスク認知などに関する研究も行われています。
これらの研究成果に基づいて、災害に対する教育や啓蒙活動も災害心理学の専門家の重要な役割となっています。
東日本大震災から、11年が経過した現在、震災発生直後とは異なる心理的な状態が、被災者の方々の中にあると考えられます。
被災地と被災者の方々を1つの「コミュニティ」といして捉えて研究するという流れが、心理学の中でも特にコミュニティ心理学において実施されています。
時系列順で被災地コミュニティ全体の心理状態の変化を追いかけることは非常に重要です。
研究の結果、被災地コミュニティは、英雄期・ハネムーン期・幻滅期・再建期の4段階を経て変化することが判明しています。
英雄期とは、災害の発生直後の段階であり、家族・友人の命・財産を守る為に危険をかえりみずに勇気ある行動をとることが多いとされています。
ハネムーン期とは、災害発生から1週間~6カ月後の段階であり、災害の体験を共有し、くぐり抜けてきたことで被災者同士の連帯感が強くなる。支援に希望を持ち、暖かいムードがあるとされています。
幻滅期とは、2ヶ月~1・2年後の段階であり、支援の遅れや行政の失策への不満が噴出。喧嘩などのトラブルも起こり易く、飲酒の問題なども出現。自身の生活の再建と個人的な問題の解決の両方に奔走するため、地域の連帯感や共感が失われるとされています。
再建期とは、災害発生から数年後の段階であり、日常が戻り始め、生活の立て直しに積極的になり、自尊心が増加するが、災害により精神的支えを失ったり、復興から取り残されたりした人はストレスの多い生活が続くとされています。
この過程は全体平均としてのものであり、実際の状態や各期間への移行タイミングは被災者ごとに異なりますが、阪神淡路大震災や東日本大震災では、この過程に沿った対応が功を奏しています。
こういった被災地・被災者特有の心理を把握した上で、心理専門職は活動をする必要があります。
そして、被災者への心理的支援を実施する場合、公的機関の指示に従い、公的な制度・システムの枠組の範囲内で活動することも重要です。
公的機関とは、政府や地方自治体を指すものであり、特定の企業や団体ではありません。自身の所属する組織・団体と公的機関は異なる可能性もあるので注意する必要があります。
被災地支援や被災者支援において重要なコミュニティ心理学については、こころ検定1級(メンタルケア心理専門士)のテキストである応用生活心理学の中で概観していますので、興味・関心のある方は、是非、勉強してみていただければと思います。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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