心理学には動物心理学という分野があります。
「動物の心?」と思われるかもしれませんが、人間と同様に動物にも知覚・認知・生理・行動があり、周囲の環境の変化などに対して、適応的に振る舞おうとするという点では共通しています。
そして、動物も子どもから大人へと成長する過程で精神発達するため発達心理学の要素があり、群れで行動する動物には社会性があるため、社会心理学の要素もあります。
このように、心理学における動物行動の発生・変容・獲得・発達などの研究を総称して動物心理学とよびます。
広義には、人間以外の動物を対象としていますが、人間と動物の行動を比較する研究も多く、比較心理学や比較行動学とほぼ同じ意味で用いられています。
動物心理学では、動物を対象として研究しますが、動物と自然を尊重した対応をしています。
長い進化の過程で動物が生活してきた自然の生活場面に研究者はたとえ研究のためであっても、できるだけ手を加えず、彼らの行動を詳細に観察する(自然観察)ことをモットーとしています。
そして、自然観察から得られた行動に基づいて、遺伝的に決められた種に固有の行動様式である固定的行動型に特に注目してエソグラム(行動目録)を作成し、行動を分類・分析します。
このような手続により、動物がなぜそのような行動を行うか、その行動が個体と種の生活や適応にいかに役立っているか、その行動がどのように発達してきた、などを調査します。
また、ある行動を取り上げて、様々な動物について系統発生的に比較検討することにより行動発現の機構を明らかにしようとするのが動物心理学なのです。
動物心理学はホイットマンやハインロート、クレーグらが最初に研究分野として確立させ、その後、ローレンツやティンベルヘンらが発展させました。
ローレンツとティンベルヘン、そしてフリッシュの3名は新しい研究分野としての動物心理学を発展させた功績により、1973年にノーベル生理学医学賞を受賞しています。
なお、前田嘉明が第二次大戦後にローレンツの研究室を訪問した後、帰国後に動物心理学を日本に紹介したことで広まっていきました。
動物心理学の研究成果の中でも、ローレンツの行った研究は特に有名です。
ローレンツは幼児の特徴である丸い体型・身体に比較して大きな頭・まるまるとした手足や頬などの形態的特徴は、人間のみならず他の動物の幼体とも共通するものであることを発見しました。
そして、この形態的特徴に加えて子どもらしい行動や匂いなどの特徴が成人・成体に「かわいらしい」とか「愛らしい」という感情や気持を起こさせることを明らかにし、これが人間における生得的解発機構(IRM)の一例であると考えました。
その後、ローレンツの弟子であるアイブル・アイベスフェルトは、欧米のみならずアフリカやアジアなどの多様な文化の中に生活する人間に共通する表情を手がかりとして、人間における生得性の研究を行い、人間と動物の行動比較に関する研究をさらに発展させました。
動物心理学では、野生の動物を自然観察を通じて研究することも多いですが、実験室で飼育した動物に対する研究も実施されています。
伝統的に、マウスやラットなどのネズミの仲間やハトなどに関する研究が多いですが、最近では、サル、スンクス(ジャコウネズミ)、カメ、サカナなど研究の対象とされる動物が広範囲となってきています。
また、動物心理学のルールとして、動物のことは「猿」や「鳩」・「鼠」などのように漢字表記はせず「サル」・「ハト」・「ネズミ(マウス・ラット)」というようにカタカナ表記をします。
そのため「人間」も「人」も「ヒト」と表記します。これは、単体・個体としてではなく、種として扱うという考え方が動物心理学にはあるからです。
動物心理学の研究は学習や条件づけなどの研究と脳と神経に関する研究が合わさり、より明確に動物と人間の行動発現の機構解明が進められています。
これらの研究は、相互に影響を及ぼしつつ、また進化学・遺伝学・動物学・生態学・生理学・生化学などの生物諸科学とも密接に関連しながら発展を続けています。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
「つぶやきコラム」は、医療・福祉・心理学・メンタルケアの通信教育スクール「TERADA医療福祉カレッジ」が運営するメディアです。
医療・福祉・心理学・メンタルケア・メンタルヘルスに興味がある、調べたいことがある、学んでみたい人のために、学びを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。