心理学・カウンセリング・メンタルケアの専門家には、9月生まれの著名な先生方がいます。
カレン・ホーナイは1885年9月16日、ドイツ生まれで、アメリカで活躍した精神科医・精神分析家です。
ホーナイはベルリン医科大学で医学を勉強する中で、同時に精神分析の訓練を受けました。
ホーナイはその後アメリカに移住し、シカゴ精神分析研究所副所長を務めたのち、ニューヨークで開業し、ニューヨーク精神分析研究所や社会研究学校で教鞭を取り、多くの精神分析家を育成しました。
ホーナイが活躍していた当時のフロイトを中心とした精神分析の考え方は男性(男児)を主体とした理論や概念が多い傾向にありました。
ホーナイは男性(男児)を中心としたフロイトの考え方や、さらに根本的な部分である生物学主義には批判的であり、神経症は社会・文化的要因の産物であり、人間関係における孤立感・無力感によって引き起こされるものであると主張しました。
この考え方はホーナイ自身が女性であることや、当時のヨーロッパ諸国が男性優位の社会・文化であったことも影響しています。
そのため、ホーナイの考え方は心理学や精神医学だけではなく、フェミニズムにも大きな影響を与えました。
ホーナイの代表的な著書には『女性の心理』『現代の神経症的人格』『精神分析の新しい道』『自己分析』『心の葛藤』『神経症と人間の成長』などがあります。これらの著書からもホーナイが女性や「新たな精神分析の形」などに強く興味・関心を持っていたことがうかがえるでしょう。
精神分析とは何か (我妻洋, 川口茂雄, 西上裕司訳、1976年)ホーナイは孤立感・無力感の源泉を、個人が最早期に母親との間で体験する「基本的不安」に求め、人間のパーソナリティ形成における対人関係の重要性を強調しました。
フロイト本人の主張する考え方とは異なる見解を示したことで、ホーナイは新フロイト派の中心メンバーとなりました。
新フロイト派はホーナイをはじめ、フロム、サリヴァン、ライヒマンなどにより、1930年代から40年代にかけて、アメリカを中心に活躍した精神分析家たちを指します。
いわゆる主流のフロイトの考え方に沿った精神分析では、男児のコンプレックスであるエディプス・コンプレックスを中心に神経症の治療・支援の手掛かりとしています。
しかし、世界には男性中心ではなく、女性中心の母系民族社会があり、そういった社会では、フロイトが提唱したエディプス・コンプレックスは存在しません。
従って、フロイトの想定していた「男児および男児的な葛藤(コンプレックス)は性別や国・地域・文化を超えて普遍的に存在する」という汎性欲説が覆されたわけです。
母系民族社会の存在は文化人類学者のミードなどによって解明・分析されており、そこから派生したコミュニケーション理論などが新フロイト派にとって重要なキーワードとなっています。
そのため、新フロイト派は力動的・文化的精神分析学とよばれることもあります。
新フロイト派には様々な理論や概念があります。
フロムは、人間行動の理解には、その人間が所属する社会構造との関係を考えなければならないとしており、資本主義社会体制において、人間が内的欲求と外的な社会的要請との妥協から発達させていく「社会的性格」という概念を提唱しました。
また、ホーナイは神経症的不安が性欲動からではなく、乳幼児期の基本的な安全感の欠如(孤独で無力な存在という基底不安)によるものであり、対人関係の障害によって引き起こされるものであるという考え方を示しました。
さらに、サリヴァンは乳児期における母親とのコミュニケーションの様態から独自の発達段階の概念を提唱しました。
サリヴァンは、精神医学は「対人関係の学問」であると定義し、人間行動の真の理解は人間関係の中でしか得られないと主張しました。
サリヴァンのこの考え方は「関与しながらの観察」とよばれています。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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