心理療法の中には音楽を利用したものがあり、音楽療法とよばれています。
音楽療法は音楽が持つ様々な効果を心身の健康回復・治療に利用する療法の総称です。
音楽を健康のために利用するという発想は古くから様々な文化において広く存在していましたが、科学的な実証研究は比較的最近になってからスタートしています。
治療・支援の対象と音楽のどのような効果を利用するかという点から、主に以下の5つに分類・整理することができます。
(1)神経症や心身症の患者に心身のリラクゼーションを促進するために音楽を用いる
(2)発達障害や情緒障害児に対し音楽を楽しむことによるカタルシス効果などを生かすという意味で遊戯療法的な利用
(3)身体機能の回復をめざすリハビリテーション領域での利用
(4)精神障害者に対する心理療法的な利用
(5)高齢者施設などでの交流促進や心身機能増進のためのレクリエーション的な利用
認知療法が認知心理学を基礎としているように、音楽療法も音楽心理学を治療・支援の基盤としています。
音楽心理学は、音楽に関係する全ての行動を対象とする心理学であり、当初は音響心理学としてスタートし、19世紀後半以降に独自の体系化がなされています。
心理学者のヘルムホルツやシュトゥンプらの著作が契機となり、科学的な音楽心理学が成立していきました。
20世紀前半には、心理学者のシーショアらによって、芸術における音楽的な才能の心理学的研究が開始されています。
シーショアの著作である『音楽心理学』は、そのものずばり、音楽心理学に関する名著とされています。
また、心理学者のクルトやミュラー・フライエンフェルスらのように哲学的な要素の強い研究や、ファーンズワースのように社会心理学的に音楽を捉えようとする立場からの研究も実施されました。
そして、マーセルらによる音楽教育心理学は、音楽教育の現場において重要な役割を果たしています。
その後、第二次大戦後から応用音楽心理学の領域が急速に発展し、音楽が人間に与える機能的効果を科学的に研究して活用しようとする環境音楽(background music ; BGM)や音楽療法の分野に関する研究・実践が盛んになっていきました。
音楽心理学では、その他の心理学領域と連携する形で様々な研究・実践が行われていますが、主な分野には以下のようなものがあります。
(1)音楽の基礎的要素の音響学的研究
(2)音楽的知覚(音の高さ・音の大きさ・音色・音階・音程・旋律・音の協和・リズムなど)の研究
(3)音楽に関する生理的・医学的な測定・評価(呼吸・心拍・筋電図・脳波など)の研究
(4)音楽の社会心理学的な研究
(5)作曲・演奏・音楽鑑賞についての研究
(6)音楽的能力等についての研究
(7)音楽訓練・音楽教育に関する研究
(8)環境音楽(BGM)や音楽治療などの日常生活・産業・医療の場における音楽応用の研究
日本でも音楽心理学や音楽療法は一部の大学・大学院で講義が実施されています。
また、日本音楽療法が学会という学術団体もあり、精力的な研究活動や実践的な研修が実施されています。
日本音楽療法学会は、1995年に前身となるバイオミュージック学会が設立されたところからスタートしています。
バイオミュージック学会は、主に音楽が生体に及ぼす影響を客観的に評価する研究に関する学術団体でした。
その後、バイオミュージック学会と臨床音楽療法協会(臨床現場での音楽療法の技を研究・研鑽及び普及活動を主とする学術団体)が発展的に合併することで「全日本音楽療法連盟」が設立されました。
そこで、音楽心理学と音楽療法の研修・講習を充実させていく中で、認定音楽療法士の資格制度が設立されています。
そして、より音楽療法・音楽療法士の普及と発展のために、2001年4月1日に「日本音楽療法学会」を発足されました。
現在、日本音楽療法学会は全国に9つの支部を設け、2018年時点で約5300名の会員が所属しています。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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