AI(人工知能)の発展は、心理学にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。
AI(人工知能)は、コンピュータの誕生に合わせて、1950年代に登場した研究分野です。コンピュータ・プログラムは、PCに知的な活動を実現させるものであり、AI(人工知能)の発端はプログラミングであるといえます。
そして、より複雑で高度な活動をコンピュータに正確かつ高速に実現させることが、AI(人工知能)の研究で盛んに実施されています。
そして、1960年代になると、心理学の分野では認知心理学の研究が盛んに実施されるようになります。認知心理学は人間の記憶・推論・判断・評価・意思決定などの認知機能に関する研究を実施する分野です。
従って、コンピュータの誕生と人間の認知機能の研究は非常に密接な関係があります。
コンピュータにも、記憶(メモリ)があり、情報処理の機能があります。
これは人間の脳の認知機能を研究する過程で、コンピュータが開発されていき、同時にコンピュータの機能やAI(人工知能)について研究することで、逆に人間の脳や神経、認知機能についても明らかになっていったということが関係しています。
既にコンピュータ・AI(人工知能)に関する研究は、70年以上続けられています。
そのため、AI(人工知能)は、心理学やカウンセリングなどの分野にも応用的に展開されるようになっています。
たとえば、産業・組織心理学の分野では、従業員のストレス・メンタルヘルスなどに関する研究において、AI(人工知能)が活用されはじめています。
ストレスチェックは年1回の実施が義務化されていますが、データ収集頻度の少なさから、休職・離職等の効果的な予防策を講じることが困難であるというデメリットがあります。
そこで、ストレスチェックや健康経営の分野では、より頻繁にデータを収集するパルスサーベイが注目されています。しかし、パルスサーベイには回答する従業員の負担の大きさと継続率の低下、膨大なデータ処理等の問題があります。
そして、最近ではコロナ禍によるテレワーク増加によって、これまで直接対面で確認していた従業員の不調把握に課題を抱える企業・事業所が増えています。
こういった問題を解決するためには、大量の従業員の仕事に関する情報を収集・分析する必要があります。ここで重要になってくるのが、AI(人工知能)です。
まず、データの収集・分析をAI(人工知能)が実施することで、時間をかけずに正確な対応が可能になります。
そして、どの従業員にどれくらいのストレスが発生しているのかについても、複雑な計算や統計に基づいて、AI(人工知能)が解析することも可能です。
パルスサーベイという大量のデータ収集が必須となる健康経営の最前線では、AI(人工知能)は非常に重要な要素となると考えられます。
AI(人工知能)は心理カウンセリングや心理療法の分野にも影響を及ぼしています。
「AI(Artificial Intelligence)が普及すると、カウンセラーという仕事は、どう影響されるかを述べなさい。」この設問は鳴門教育大学・大学院・人間教育専攻・心理臨床コースの2019年度入試問題で実際に出題されたものになります。
これは、未来の公認心理師・臨床心理士を養成する大学・大学院では、心理カウンセラーという存在がAIの普及によって、少なからず影響を受けると予想しているということを表しています。
これから心理カウンセラーになるのであれば、AI(人工知能)とカウンセリングの関係について、心理カウンセラーになる前からしっかりと考えておかなければならないということなのです。
さらに、最新の研究では、精神疾患の診断にもAI(人工知能)の活用に関するものがあります。
筑波大学が7251名を対象にAIによる精神状態の診断に関する研究を実施しています。
この研究では、7000名以上の人々の性別・年齢・婚姻・就業・所属組織・職位・家族との同居・別居の状況・運動習慣・喫煙習慣・世帯年収・ストレス・睡眠などに関するデータをAI(人工知能)に読み込ませます。
そして、同時に精神科医6名には、前述のAI(人工知能)に読み込ませたデータと同じデータを見てもらいます。
その結果、精神科医よりもAI(人工知能)の方が、より正確に精神疾患に関する診断を実施できたという結果が得られています。
このように、AI(人工知能)は、心理カウンセリングの現場においても、心理アセスメントなどの一部の専門的な業務を、専門家よりも正確に実施できる可能性を秘めているのです。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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