コラム

心理学における幸福

2023.3.16
  • 幸福感
  • こころ検定3級

幸せとは、心理学では、どのように定義されているのでしょうか。 

 

 

 幸せや幸福感とは何なのか、というテーマは、実は科学の分野で非常に古くからおこなわれてきた問いです。
特に哲学の分野で非常に重要なテーマとして「幸福」というものが研究され続けてきました。
たとえば、中国の漢字の成り立ちとして「幸」という漢字がどのように成立したのかという話題があります。
これは、東洋哲学的に「幸福」とは何かということを示す分かりやすい例であるといえるでしょう。

漢字の成り立ちにはいくつかの説があるため、1つだけに絞り込むことはできませんが「幸」という漢字の成り立ちの有力な説の1つは、両手に手枷をはめられた犯罪者、というものです。
また、場合によっては、手枷をはめられた死刑囚という解釈もされています。
これらはいずれも、最悪の状態と比較して、少しでも良い状態を望む、ということを示しています。
つまり、手枷をはめられた死刑囚が、何らかの偶然(幸運)で、死刑を免れたという状況において「死刑にならなくて良かった」という状況を「幸」と表現しているというわけです。 

 

このように、東洋哲学的な考え方では、幸福感というものは、ただそこに存在しているというものではなく、何かと比較することで初めて発生するものであると考えられています。
漢字の「幸」の成り立ちの例もですが「死刑になってしまう自分と比較して、ならなかった自分は幸福である」という考え方があるわけです。
そして、このような比較対象に基づく幸福感という考え方は、近年の経済心理学、行動経済学の研究結果と一致するものであるということも判明しています。

経済心理学・行動経済学の研究の結果、年収などの収入額と幸福感の間には、一定の相関が認められるものの、ある一定以上の収入を超えると、そこからはたとえ収入がさらに上がっても幸福感は向上しないということが判明しています。
たとえば、年収が300万円であった人が、翌年には年収が400万円になったとしましょう。
この場合、今年と翌年を比較した上で、収入が増加したことで「去年の自分と比べて、今年の自分の方が幸せである」という感覚を得るわけです。

しかし、たとえば、年収が9900万円の人が、翌年に年収が1億円になった場合、同じように幸福感が向上するかというと、そうはならないということが判明しています。
これは比較対象として、年収が9900万円であった「去年」と1億円になった「今年」を比較しても、去年の自分は不幸で、今年は幸福であるという感覚にはなりにくいからです。 

 

このように幸福感というものは、基本的に時系列で「今の自分」と「昔の自分」を比較して「過去の自分が不幸である」という結論に至ることで初めて、相対的に「今の自分は幸福」であるという感覚を得ることになるのです。
また、自分を起点に過去と現在での比較以外にも、自分と他者を比較して、他者よりも自分の方が幸福だ、つまり「他者が不幸である」と認めることで初めて「自分は幸福である」となるわけです。
 

 

このように幸福感は比較によって発生するものですが、その幸福感を測定・評価するための心理検査があります。

WHO SUBIは陽性感情と陰性感情を測定・評価することで、幸福感を検査対象としています。
精神疾患やストレスについて考える場合、不安や抑うつ、怒りなどの陰性感情(ネガティブ感情)が、どうしても注目されがちです。
しかし、人間には幸福感や満足感などの陽性感情(ポジティブ感情)も存在します。

研究の結果、陽性感情と陰性感情は必ずしも相関せず、2つが独立して動くことがある、陰性感情の強いストレス状況でも、陽性感情を感じることができれば、充実した生活が送れるということが判明しています。
また、精神科受診者と非受診者で比較した場合、受診者群は陽性感情と陰性感情に相関が認められるものの、非受診者群は相関関係が認められないということが判明しています。
このことから、陰性感情が強い人(高ストレス者・精神疾患患者等)は陽性感情が弱くなるが、陰性感情が強くない人(低ストレス者・健常者等)は、陽性感情と陰性感情がそれぞれ独立して働くと考えられています。 

 

WHO SUBIなどの心理検査については、こころ検定3級の検査学で概観していますので、興味・関心のある方は、是非、勉強してみていただければと思います。 

 

 

著者・編集者プロフィール

この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部

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