ジグムント・フロイトが創始した精神分析の理論において、防衛機制という概念が提唱されています。
これは、あくまで概念であり、生理学的・神経学的・認知科学的に、そのような機能が脳や神経にあるということではありません。
ただ、私たちの“考え方のクセ”や“こころのクセ”のような感じで、日々の様々な出来事やストレスへの対処として、非常に分かり易く、納得のいきやすい内容になっています。
基本的に防衛機制とは、不安や抑うつ、罪悪感、恥などのような不快な感情の体験を弱めたり、避けることによって心理的な安定を保つために用いられる様々な心理的作用であり、通常は当事者自身が意識して生じることはないとされています。
防衛機制は、苦痛な感情を引き起こすような受け入れがたい考えや感情を受け流すために無意識的に実行される心理過程であり、これについてフロイトが初めて言及したのは1894年であるとされています。
その後も、フロイトの弟子を含めた様々な精神分析の専門家が防衛機制について検討を重ねています。
フロイトは数ある防衛機制の中でも、抑圧は最も基本となるものであるとしており、初期には防衛機制 = 抑圧というように捉えていました。
その後、娘のアンナ・フロイトは抑圧以外に、退行・反動形成・置き換え・投影などについて提唱しています。
また、精神分析家のメラニー・クラインは子どもへの児童分析の過程で、分裂などの原始的防衛機制について提唱しています。
以下が、主な防衛機制および原始的防衛機制です。
・抑圧:受け入れがたい欲求や感情を、意識の外に押しやる
・反動形成:欲求や感情とは逆の行動をとる
・投影:自分の欲求や感情を、他者のものであると考える
・同一視:名声や権威を自分のものであるかのように捉える
・昇華:社会的に受け入れられないような欲求や感情を、社会的価値のある形で表現する
・退行:困難な状況で、より未熟な態度や行動をとる
・置き換え:欲求や感情を本来向けるべき対象とは別の対象に向ける
・合理化:満足できない欲求に対して、論理的に考えることで納得しようとする
・知性化:受け入れられないものに対して、知識や観念を用いて処理しようとする
・補償:劣等感を他の面から補おうとする
・取り入れ:相手の持っている特質や機能を自分の中に取り込み、あたかも自分のものであるかのように捉える
・転換:無意識的な葛藤が、知覚あるいは随意運動系の身体症状として表れる(心身症)
・身体化:無意識的な葛藤が身体症状として表れる(心身症)
・行動化:無意識的な葛藤が、言葉ではなく行動を通して表現される(心身症)
・隔離:ある観念・思考から、本来それに伴っているはずの感情を切り離す
・打消し:不安や罪悪感、恥などのネガティブな感情を、それとは反対の行為によって、打ち消そうとする
・分離:1人の人物を良い部分と悪い部分に分けて、2人の人間のように捉える
・投影性同一視:自分が特定の他者に対して「こうあって欲しい」という欲望を相手に投影し、それによって相手をコントロールする
・理想化と脱価値化:相手の全てを「良い」と判断し、悪い部分があっても認めない相手の悪い側面を認めざるを得なくなると、全てを「悪い」として、最低評価へと変更する
・躁的防衛:今まで認めることができなかった相手の悪い側面を受け入れようとするが、今までの自身の態度に対して不安や罪悪感を感じてしまう。それに対して、自身が躁的(から元気・楽しそうなフリ)をすることで防衛する。
これらの防衛機制自体は、誰にでも認められる正常な心理的作用であり、通常は単独ではなく他のものとともに関連しあいながら作用するものであるとされています。
しかし、特定の防衛機制が常習的に柔軟性を欠いて用いられると、病的な症状やパーソナリティ障害的な傾向となってしまい、様々な不適応状態として表面化することになります。
精神分析や防衛機制については、こころ検定2級(メンタルケア心理士)のテキストであるカウンセリング基本技法の第6章で概観していますので、興味・関心のある方は、是非、勉強してみていただければと思います。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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