心理学では、時間の経過に対する知覚機能のことを時間知覚とよびます。
ただし、心理学的には時間は2種類に分けられます。
実際の時間、たとえば時計で確認できるのは物理的時間とよばれます。
これに対して、私たちが感覚的に経験・体験するのは心理的時間(psychological time)とよばれます。
一見すると、物理的時間は「客観的・絶対的」、心理的時間は「主観的・相対的」というイメージがあるかもしれません。
しかし、私たちは物理的時間を単純に捉えているのではなく、出来事が連続的に順序をもって生起する過程や変化などの「手がかり」を利用して知覚しています。
そのため、いわゆる五感による知覚とは異なり、時間知覚は特定の受容器(目・耳・鼻・舌・皮膚)への刺激から始まるわけではありません。
視覚や聴覚などの複数の「手がかり」を利用して出来事の情報処理の結果として、時間知覚は成立すると考えられています。
たとえば、認知される変化の数や、記憶貯蔵庫内での蓄積容量が、それぞれ時間知覚の基礎であるという理論が提唱されています。
また、人間を含む有機体内にかなり規則的な変化を作り出す内的時計(internal clock)のようなものの存在を想定し、そこから時間知覚の基礎となる情報が提供されるとする仮説もあります。
さらに、時間経過とそれ以外の出来事への注意の配分に応じて、両者の時間知覚への寄与の程度が異なるとする理論モデルもあります。
時間知覚に関する心理学的な研究は、その複雑さから様々な課題があります。
代表的な問題として、時間知覚に関する精度の問題と、心理的時間の伸縮をもたらす要因の問題の2つがあります。
精度の問題に関しては、同時性の知覚・時間弁別・心理的時間の尺度化の問題などがあります。
心理学者のエイスラーは、これまでの多くの時間知覚に関する研究結果を再調査し、1秒以下から数百秒におよぶ範囲において、心理的時間は物理的時間に対して、平均およそ0.9の指数部をもつべき関数であることを明らかにしました。
つまり、実際の時間と感覚的な時間には、ある種の法則に従った「ズレ」があるということです。
心理的時間の伸縮をもたらす要因については、様々な観点から研究されており、代表的なものとして、以下の3つが挙げられます。
たとえば、体温の高い状態や興奮剤を服用している時のように、神経生理学的に興奮していると、一般に心理的時間は長くなります。
逆に体温を下げたり、麻酔薬のもとにある時、あるいは酸素の少ない高所にいる時は、心理的時間は短くなります。
また、昼夜の代謝速度と心理的時間の関係、双極性障害患者の躁うつと心理的時間の関係が、これらの仮説と一致するという研究もあります。
経過する時間そのものに注意を集中し、時間の経過を意識すればするほど、一般に心理的時間は長くなります。
たとえば、経過時間中に行う活動が魅力的で、適度に困難で自我関与が高いものであればあるほど、時間経過を意識することが少なくなり、心理的時間は短くなります。
また、ある時間の経過後に出来事が起こる、あるいは行為を行うことが分かっており、ひたすらそれを待っている場合には、時間経過に注意が集中するので,理的時間は長くなります。
多くの出来事が生起するには、長い時間が必要であるという認識の般化として、刺激がより多く、より強く、より複雑、より大きい等々と認知される時は、一般的に心理的時間は長くなります。
たとえば、外的な継起的刺激がある時、その頻度が高いほど、心理的時間は長くなります。
ドット刺激であれば、数が多いほど、またそれが動く場合は速いほど、心理的時間は長くなります。
これは、大人より子どもにおいて強く認められる傾向があります。
人間の時間知覚に関する内容の一部(主に生理心理学的な側面)は、こころ検定2級(メンタルケア心理士)のテキストである精神解剖生理学基礎の第4章で概観していますので、ご興味・ご関心がある方は、是非、勉強してみていただければと思います。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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