コラム

認知行動療法の歴史

2020.7.30
  • 認知行動療法
  • 学習心理学

認知行動療法は現在、日本で唯一、医療保険の対象となっている心理療法です。
では、その認知行動療法はどのような変遷を経て今に至っているのでしょうか。

 

 

 

認知行動療法は現在、最も主流の心理療法の1つです。
そして、現在、認知行動療法の「第3世代」や「第3の波」とよばれるACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)やマインドフルネスなどがあります。

 

「第3の」ということは、第1・第2があって、現在に至るということになります。
では、認知行動療法はどのような歴史的変遷を経て発展してきたのでしょうか。

 

【行動療法の確立・発展】

 

1910年代から1930年代にかけて、学習心理学という分野が確立されました。
その際、学習尻学者のジョン・ワトソンは「心理学が取り扱うのは、目で見て確認できる行動(反応)だけで良い」という行動主義という考え方を提唱しました。

 

ワトソンが行動主義を提唱する以前の時代、心理学では意識や感覚、精神分析では無意識や抑圧などの、いずれも当時の科学技術では可視化・数値化できないものを対象にしていました。

 

しかし、これらの研究では、科学的な検証が難しいという問題がありました。
特に心理カウンセリングの分野で当時主流となっていた精神分析は仮説概念に基づくものであり、その効果を検証することが非常に困難でした。

 

そんな中、行動主義に基づいたデータを重視した検証可能性を担保する学習心理学の知見は、精神分析の問題点を解消することができるという点で、非常に注目されました。

 

行動療法は、実際に目に見える行動のみをターゲットとし、精神疾患やストレスによる症状や問題となる反応・行動は、環境に対する不適応行動であると捉え、不適応行動の消去と適応行動の強化・学習を行うという特徴があります。

★「ストレスに対する適応と不適応

 

精神医学的な見地からは、限局性恐怖症や自閉スペクトラム症などの神経発達症(発達障害)の児童の治療・支援への有効性が科学的に証明されています。

 

 

【認知療法・認知行動療法の確立・発展】

 

1960年代に入るとコンピュータの発明と普及が進み、その過程でコンピュータの機能と人間の脳の機能を比較研究することが盛んに行われるようになりました。
特に情報処理の観点からの研究が進み、人間の記憶・判断・推論などの機能が科学的に明らかになりました。

 

そこで隆盛を極めたのが認知心理学です。
私たちはまず何かを見聞きする(知覚)ことで外界の情報を取り込みます。
そして、この取り込んだ情報をどのように処理するのかが認知機能であり、認知の仕方によって、その後の感情や行動が決定します。

 

そして、認知に問題が発生することが、うつ病をはじめとする様々な精神疾患の原因となるという理論が提唱されるようになりました。
このような研究の成果を活用したのが認知療法や論理療法です。

 

そして、既存の行動療法に認知に対するアプローチを加えて、認知行動療法が誕生しました。
これは、人間の心理的過程におけるスタートラインであり、心理療法的なアプローチで改善可能な認知と、最終的なアウトプット部分である行動にアプローチするものです。

 

当初はうつ病の治療・支援に対する有効性が主でしたが、その後の事例研究等の結果、パニック症・全般不安症・限局性恐怖症・心的外傷後ストレス障害・神経性やせ症(神経性過食症)・睡眠障害など幅広い精神疾患への有効性が明らかになりました。

 

【認知行動療法の第3世代の登場】

 

まず行動のみに注目する行動療法が誕生し(第1世代)、次いで認知機能と行動の両方にアプローチする認知行動療法が誕生しました(第2世代)。
この第2世代に当たる認知行動療法では、認知の歪みや自動思考、スキーマを修正していくというアプローチを取ります。

 

しかし、30年、40年と続いてきた人生の中で確立された“考え方のクセ”を修正するのには時間がかかってしまいます。
そこで、認知へのアプローチ方法に新たな要素を加えたのが、第3世代の認知行動療法なのです。

 

第3世代の認知行動療法の代表的なものにACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)マインドフルネスがあります。
ACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)におけるアクセプタンスとは、感情や思考、身体感覚、症状など「いま、ここで」体験している事柄を、評価・判断なしにそのまま受け入れることを指します。

 

そして、コミットメントとは、提示されたホームワークや行動エクササイズを行うことで、回復にとって有意義な行動を行うことを指します。

 

マインドフルネスとは、感情や思考、身体感覚、症状など「いま、ここで」体験している事柄について、感情や思考に巻き込まれることなく、それを体験していることに注意を持続させ続けることを指します。

 

マインドフルネスでは、瞑想や座禅、呼吸法などを組み合わせて実施することが多いです。
これらの手法は、第2世代における認知の修正に主軸を置かず、受け入れたり、注意を集中したりすることに比重を置いています。

 

行動療法・認知行動療法については、こころ検定1級(メンタルケア心理専門士)のテキストであるカウンセリング技法の第2章から第7章で概観していますので、ご興味・ご関心がある方は、是非、勉強してみていただければと思います。

 

著者・編集者プロフィール

この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部

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