心理学では「人助け」を援助行動という観点から、主に社会心理学の分野において研究が実施されています。
心理学では、いわゆる「人助け」のことを援助行動とよび、主に社会心理学を中心に研究が進められています。
援助行動とは、他者に利益をもたらそうと意図された自発的な行動と定義されています。
また、援助行動のうち、利他的に動機づけられた行動は利他的行動とよばれています。
利他的とは、他者の利益のために外的報酬を期待することなく、自発的意図的に振る舞うことを指し、逆に自己の利益を考えた上での行動は利己的行動とよばれます。
利他的行動は他者に対する寛容や同情の表現、援助や救助、分与や寄付、社会的な不公平や不平等の是正などの形で表現されます。
ただし、これらの行為が真に利他的行動であるか否かは、先に述べたように行為者の動機によります。
たとえ「他者を助ける」行為であっても、行為者の動機が利己的であれば、それは「利他的な」行動とはいえません。
利他的行動の生起に影響する要因には、年齢・共感性などの個人要因と、他者の存在の有無、状況の緊急性などの状況要因などが想定されます。
特に共感性は非常に重要な要素であることが、研究の結果として判明しています。
共感性とは、一般的に他者の感情を知覚することに伴って生起する代理的な感情的な反応であると定義されています。
共感性が生起するためには、他者の感情に適切な名前をつける(感情の認知)、他者の立場に置かれた自分を想像することにより他者の感情を推論する(役割取得)、他者が有する感情を共有する(感情の共有)のような対人的な認知能力が必要となります。
共感性は他者の理解を深め、円滑な対人関係の形成の基礎となるものなのです。
また、共感性の程度は他者の感情に対する社会的感受性の指標ともなります。
これらの点から、共感性は社会的スキルや社会的コンピテンスとの関連で論じられることも多く、同時に、心理カウンセラーが備えるべき態度条件としても重視されています。
つまり、利他的行動には他者の置かれた状況に対する認知能力と、他者に対する共感性が要求されるわけです。
そのため利他的行動は、自己中心的行動や利己的行動よりも後に発達するものであり、基本的には児童期以降に獲得されます。
利他的行動の発達の流れは以下のような段階を経ていきます。
(1) 2歳くらいまでに養育者との情緒的なつながりを通して共感性が活性化される
(2) 6歳くらいまでに共感性により喚起される利他的動機が発達する自己犠牲のような高次な利他的行動はまだこの段階では生起しにくい
(3) 10歳くらいまでに利他的規範認知である互恵性・社会的責任を学習し、利他的行動が内面化し安定化する
(4) 10歳以上になると道徳的判断力が向上し、利他的行動がさらに内面化し、高次の行動へ発達していく
このようにして精神発達の過程で獲得されていく利他的行動に裏打ちされるのが、援助行動全般なのです。援助行動には、まず援助者に関する要因として以下のような要素が上げられます。
(1) 個人的特徴(年齢・性別・パーソナリティ・共感性・援助能力など)
(2) 心理的状態(気分や時間的余裕など)
(3) 援助動機(利己的動機や利他的動機など)
(4) 援助の原因帰属(帰属と認知や感情の関連など)
そして、被援助者に関する要因としては、以下のようなものが挙げられます。
(1) 個人的特徴(年齢・性別・身体的魅力・人種など)
(2) 援助者との関係(熟知度や態度の類似性など)
さらに、援助者と被援助者の両者をとりまく要因としては、以下のようなものが挙げられます。
(1) 援助事態の性質(事態の緊急性・援助者の数・援助コスト・場の雰囲気など)
(2) 環境要因(地域差・騒音・援助者と被援助者の物理的距離など)
(3)規範と文化(社会的規範・文化比較など)
援助行動の具体的なメカニズムとしては、心理学者のラタネとダーレーの緊急事態での介入に関するモデルが有名です。
ラタネらは緊急事態での介入までの意思決定過程と介入を抑制する要因について検討し、特に傍観者効果の存在を明らかにしています。
また、コストと報酬の観点から援助行動を分析する社会的交換理論も提唱されています。
この理論では、援助に対するコスト(労力や危険性)と報酬(賞賛や自尊心の高揚)だけでなく、非援助に対するコスト(非難、良心の呵責)からの分析も行われています。
さらに,社会的規範の活性化が援助行動を促進すると考えるアプローチもあります。
このアプローチでは、社会的責任性の規範、返報性の規範、衡平規範について、それぞれ検討しています。
援助行動や傍観者効果などの集団や社会に関する心理学については、こころ検定1級のテキストである精神予防政策学で概観していますので、興味・関心のある方は、是非、勉強してみていただければと思います。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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