いわゆる「サブリミナル効果」とは、どのようなものなのでしょうか。
心理学の一分野に認知心理学という分野があります。
認知心理学とは、人間の認知機能について研究する分野であり、人間の思考・意思決定・記憶・推論などが主な研究対象です。
この認知心理学における研究で、サブリミナル・プライミングという現象が研究されています。
サブリミナル・プライミングを説明する前に、まずは「プライミング」という現象について解説したいと思います。
プライミングとは、先行刺激の受容が後続刺激の処理に無意識的に促進効果を及ぼすことを指します。
プライミングという現象は実験によって明らかになったものです。
たとえば、先行する刺激として複数の単語(例:えいが・かいが・ことり・さんが・りんご など)を実験参加者に呈示します。
そして、ある程度の時間が経過した後、実験参加者に単語完成テストを実施します。
単語完成テストとは、以下のようなものです。
え〇が
・〇を埋めて、単語を完成させてください。
実験の結果、先行して呈示した単語と関連する単語完成テストは呈示されなかった単語完成テストより正答率が高いということが判明しています。
つまり、先行刺激が後続のテストに影響を与えているということが示されたわけです。
では、サブリミナル・プライミングとは、どのような現象なのでしょうか。
同じ「プライミング」という言葉が冠されている通り、やはり、先行する刺激が人間の認知や行動に影響を及ぼすという共通点があります。
では、サブリミナルとは何なのでしょうか。
これは「閾下」というような意味があり、本人が提示された刺激を正確に見れるか、見れないかの非常に速い速度で呈示するというものです。
サブリミナル・プライミングに関しては、1957年9月から6週間にわたり、市場調査業者のジェームズ・ヴィカリーがアメリカのニュージャージー州フォートリーの映画館で映画「ピクニック」の上映中に実験を行なったとされている、という話が有名です。
ただし、重要なのは「実験を行ったとされている」という部分で、後に、実験自体の存在が非常に怪しいものであったということが判明しています。
この映画館での実験では、映画の上映中に「コカコーラを飲め」・「ポップコーンを食べろ」というメッセージを1/3,000秒ずつ、5分毎に繰り返し映写したところ、映画館でのコカコーラ:売り上げが18.1%増加し、ポップコーン:売り上げが57.5%増加したというものです。
これらの結果は、映画を見ていた観客が気付かないレベルで刺激を与えた結果、その後の消費者行動・購買行動に大きな影響を及ぼすことができたというものです。
つまり、観客本人は何が起きたのか知らないにもかかわらず、自分たちの意思決定や購買行動が操作されてしまったということです。
しかし、ヴィカリーはこの実験の結果について、アメリカ広告調査機構からの要請を拒否し、研究論文としての発表をしませんでした。
このことから、この実験は疑念を持たれることになります。
その後、映画館での実験結果が有名になったことで、別の形で再実験が行われました。
1958年にカナダのTV番組の中で、352回「今すぐお電話を」というメッセージを投影させるという実験が行われました。
しかし、番組終了後に誰も電話をかけてくることはありませんでした。
また、放送中に何か感じたかを手紙で送るよう視聴者に呼びかけましたが、500通以上届いた手紙の中に、電話をかけたくなったというものは1つもありませんでした。
こちらは、TVの番組として公式に公開される状況の中で実施されたものであるため、結果も含めて、明確な証拠があるというものでした。
そして、1962年にはヴィカリー自身が「マスコミに情報が漏れた時には、まだ実験はしていなかった、データは十分にはなかった」と発言したという記事が掲載されたことで、映画館でのコーラとポップコーンの実験に対する疑念は決定的なものとなりました。
そして、現在では、映画館での実験自体が、そもそも行われていなかったとされています。
では、サブリミナル・プライミングという現象そのものが「真っ赤なウソ」なのでしょうか。
実は心理学における研究としては、サブリミナル・プライミングに関する研究は継続されており、一定の条件の下では、サブリミナル・プライミングの効果が確認されているのです。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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