エーリヒ・ゼーリヒマン・フロムは1900年3月23日生まれのドイツの社会心理学・精神分析家・哲学者です。
フロムはドイツのフランクフルト大学に入学しましたが、1年でハイデルベルク大学に編入し、ここで社会学・心理学・哲学を学び、1922年にアルフレート・ヴェーバーやカール・ヤスパース、ハインリヒ・リッケルトらの著名な学者の指導を受けて学位を取得しました。
その後、1931年にフランクフルト大学の精神分析研究所で講師となりました。
また、フロム自身ユダヤ系でもあったこともあり、戦時中にはスイス・ジュネーヴを経て、アメリカへ移住しました。
アメリカ移住後はコロンビア大学などで教鞭を取りました。
それから、1949年にメキシコシティに移り、1965年までメキシコ国立自治大学、次いで1974年までメキシコ心理分析研究所で教育業務に従事しました。
これと並行して、1957年から1961年までアメリカのミシガン州立大学、1962年から1974年までニューヨーク大学の精神分析学の教授を務めました。
ドイツではフロムはフランクフルト学派とよばれる学術派閥の主要メンバーであり、アメリカには学派のメンバーとともに移住してきました。
そのため、フランクフルト学派の共同研究として『権威的な性格』という著書も発表しています。
フロムは精神分析の学派としては、新フロイト派の代表的な人物であり、フロイトが提唱したリビドー論に基づいた生物学的立場よりも社会的・文化的要因を重視する立場でした。
特にフロムは社会経済的な条件とイデオロギーの媒介項として社会的性格の概念を提示したことで有名です。
また、社会的性格の概念は後の大衆社会論に大きな影響を与えました。
大衆社会の心理学的な定義としては、近代社会との対比において広義の現代社会の特徴を示す用語・概念として用いられています。
その特徴として、官僚制化・産業化・都市化・情報化・交通手段の発達などによって生じる移動性・匿名性・役割と地位の高度の専門化・二次的集団の優越・伝統的価値体系の崩壊・共同体への帰属意識の喪失などがあり、こうした社会構造の変化を大衆化とよばれています。
フロムはこの大衆社会について、ファシズム研究の過程で大衆心理に焦点を当てた大衆社会論を提唱しています。
他にも大衆社会についての研究では、第二次大戦後のアメリカ社会を対象とした中間集団の解体による個人の原子化に焦点を当てた研究や、巨大集団への過同調と強制的画一化に焦点を当てた研究がなされています。
大衆社会論における個人(大衆)は、孤独と不安を抱え情緒的で非合理的な判断を行う存在であり、マスコミによる情報操作の影響を受けやすく、他者に同調しやすい存在として定義されています。
これについてフロムは「根無し草」という言葉で大衆の特徴について端的に述べています。
そして、個人の大衆化は個人の心理にも影響を及ぼすものであると考え、パーソナリティ(性格)の構成・構築には社会的な要因が強いのではないかとしています。
フロムは亡命先のアメリカで執筆・出版した『自由からの逃走』において、ヨーロッパにおけるナチズム台頭の理由を、ナチスのイデオロギーを信奉した下層中産階級の社会的性格に注目して明らかにしました。
第一次大戦後のドイツでは、破局的なインフレが進むと同時に伝統的権威が解体し、下層中産階級は経済的・道徳的に打撃を受けたのではないかとしています。
この社会層の抱く無力感や怒りは、権威主義的な社会的性格として先鋭化し、これがナチスのイデオロギーを受容する素地となったとのではないかということです。
この分析を通じてフロムは、近代人が伝統的権威や束縛から自由になった反面、自由であるがゆえの孤独感・不安感(自由への恐れ)にとらわれており、この恐れから逃避して非合理的権威に服従する危険性を秘めていることを明らかにしました。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部 「つぶやきコラム」は、医療・福祉・心理学・メンタルケアの通信教育スクール「TERADA医療福祉カレッジ」が運営するメディアです。 医療・福祉・心理学・メンタルケア・メンタルヘルスに興味がある、調べたいことがある、学んでみたい人のために、学びを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。