アドラー心理学とは、オーストリアおよびアメリカの精神医学者・精神分析学者であるアルフレッド・アドラーが創始した心理学の分野です。
アドラーは1895年ウィーン大学医学部を卒業し,眼科医を開業しました。
つまり、アドラー自身は最初から精神医学や心理カウンセリングが専門ではなかったわけです。
その後、アドラーは1902年頃からフロイトの研究会に参加し、その過程で個人心理学というものを創始しました。
フロイトは人間の心理や行動を考察する上で性欲を中心に考察しましたが、アドラーは人間が劣等感を補償するために、より強くより完全になろうという意志があると考え、これを「権力への意志」とよんで重視しました。
アドラーは精神的な問題を持つ人の劣等感の要因を理解・把握し、適切な目標設定ができるよう再教育することが重要であると考えました。
アドラーは未来志向的な人間理解を背景に、甘やかされた子、厳しく育てられた子、反社会的な子、自己中心的な子などに対する治療教育も熱心に実施しました。
アドラーの創始した個人心理学の別名がいわゆる「アドラー心理学」です。
アドラーは、人間は何らかの身体的・心理的な劣等感を個別に持っており、それを補償しようとする傾向が生じると考えました。
そして、この補償作用が強くなりすぎることがメンタル不調や精神疾患の発症の原因となるとしています。
過度な補償作用が生じる原因として、人間の心の中に存在する優越性の追求(権力への意志)の衝動があり、これこそが人間を動かす根本的な欲求であると考えました。
アドラー心理学といえば「嫌われる勇気」という言葉が印象的ではないかと思います。
しかし現在のように「嫌われる勇気」というものが有名になる以前に、心理学では別のアプローチが注目されていました。
1960年代になり、心理学の分野では認知心理学が発展してきました。
認知心理学は脳の機能である認知について、主に情報処理の観点から研究を進めていきました。
その過程で「自分自身をどのように捉えているのか?」や「他者をどのように捉えているのか?」などが明らかになってきました。
また、同様に発展してきた社会心理学の影響もあり、他者への態度や他者に対する魅力、好意、円滑なコミュニケーションなどについても様々な発見がありました。
その結果「嫌われる勇気」ではなく、心理学的な観点からの「嫌われない工夫」に関する様々な知見が明らかとなり、書籍やセミナーなどでノウハウの普及が進んでいきました。
現在でも、多くの方々が「どうしたら他人に好かれるのか?」「どうしたら魅力的な人物になれるのか?」「どうすれば他者と上手にコミュニケーションが取れるのか?」などに強い興味・関心を持っているのではないでしょうか。
そういったニーズに対するある種の回答が認知心理学や社会心理学の研究成果であり、科学的根拠に基づいた「嫌われない工夫」であるといえるでしょう。
しかし、たとえ効果的な「嫌われない工夫」があったとしても、常に努力して工夫をし続けることに対して、疲れや虚しさを感じる人も出てきました。
その結果、アドラー心理学が注目を集めることになります。
アドラー心理学はそんな「嫌われない工夫」に疲れた人々に「嫌われないように努力するのではなく、嫌われる勇気を持とう」と提唱したわけです。
それは「ありのままに生きる」というようなスローガンとも合致し、工夫を凝らして努力して生きるよりも、批判や嫌悪の対象となっても、ありのままで生きる勇気を持つことの重要性を説くことにもなりました。
ただし、アドラー心理学の内容が日常生活において効果的に機能するためには「嫌われない勇気」に沿った行動をする人が多数派である必要があります。
ありのままに生きる人がいたとしても、その状態を理解する周囲の人々が少ないのであれば、それは「勝手な人」であると認識されるだけで、問題が発生することになります。
また、それまで「嫌われない工夫」をしてきた人が、ある日を境に「嫌われる勇気」を持って行動し始めると、周囲の人は戸惑うことになります。
つまり、アドラー心理学のエッセンスは「嫌われる勇気を持って行動する側」だけではなく「嫌われる勇気による行動を受容する側」が存在することが重要なのです。
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