実存心理学とは、どのような分野の心理学なのでしょうか?
心理学の一分野に実存心理学というものがあります。
現在、実存心理学という内容で大学で授業を実施していることはほぼないかと思いますが、心理学や精神医学などの様々な領域において「実存」という考え方は活かされています。
実存心理学とは、実存主義哲学や現象学を背景理論として、人間の精神に関する様々な現象の本質を明らかにしようとすることを目的としています。
心理学はその誕生当初から自然科学として、人間の心や精神を研究するという目的を持っていました。
つまり、これは目には見えない心や精神を視覚化・数値化するというものであり、現在の最先端の心理学はあらゆる心・精神の現象を視覚化・数値化しています。
一方で、実存心理学はそういった自然科学による視覚化・数値化とは異なるアプローチで人間の心・精神の研究を進めていくという目的を持っています。
実存とは、人間の在り方そのものを問うものであり、これを心理学に応用しているのが実存心理学です。
たとえば、臨床心理学・精神医学の一般的なアプローチとしては、ストレスと精神疾患の関係性や、精神疾患の診断基準や科学的に有効な治療・支援方法の確立などが重要になっています。
そして、この過程で研究成果に基づく視覚化や数値化も実施されます。
しかし、実存心理学において注目されるべきは病気や症状ではなく、クライエント自身が示す、その人独自の在り方(人間学的現象)であるべきだとしています。
そして、この「その人独自の在り方」というものは、視覚化・数値化はできないし、そもそも学術的に定義や体系化もできないというものであり、自然科学の考え方は大きく外れるものとなっています。
実存心理学のこの考え方は、どちらかというと精神分析学(精神分析療法)の考え方に近いものがあるため、精神分析の専門家の中にも実存心理学の研究を進めている人もいます。
精神分析と実存心理学の関係性で有名なのは、ヴィクトール・フランクルです。
フランクルはオーストリアのウィーン生まれの精神科医であり『夜と霧』は戦争と人間の心理を扱った名著として有名です。
フランクルはジグムント・フロイトやアルフレッド・アドラーなどの著名な精神分析家の下で学びながら、独自の理論と実践手法を確立させています。
フランクルはクライエント個人にとっての人生の意味や価値、そして責任と自覚を手に入れることが治療・支援になると考え、実存分析およびロゴセラピーを提唱しています。
実存分析・ロゴセラピーは、フランクルによって創始された心理療法であり、人間の本質を精神的実在に求め、その在り方を分析するという、まさに実存心理学を応用した心理療法です。
実存分析は前述したフランクルの名著『夜と霧』における戦時下の体験に基づいたものとなっています。
戦時下における迫害や強制収容所での体験から、フランクルは人間を身体・心・精神の三次元からなる統一体であると考えるようになりました。
そして、人間の本質は身体・心・精神の3つのうち、精神であると考えました。
これは精神が身体と心に対して特定の態度をとるという方向性の自由と責任を持つ立場にあるからだという考え方になります。
また、フランクルは実存主義的な考え方の中でも特に「意味への意志」という概念を重視し、快楽や権力への意志が満たされていたとしても「意味」が満たされない限り、人間は真の意味で満足することはないとしています。
また、この意味を担うものとして、創造価値・体験価値・態度価値の3つを重視し、意志の下に態度を選択するという点で態度価値が最も重要であるとしています。
このような実存分析・ロゴセラピーは、精神分析療法と同様に、神経症(心身症)において効果があるとされています。
実存心理学と関連の深い精神分析学・精神分析療法については、こころ検定2級のカウンセリング基本技法において概観していますので、興味・関心のある方は、是非、勉強してみていただければと思います。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部 「つぶやきコラム」は、医療・福祉・心理学・メンタルケアの通信教育スクール「TERADA医療福祉カレッジ」が運営するメディアです。 医療・福祉・心理学・メンタルケア・メンタルヘルスに興味がある、調べたいことがある、学んでみたい人のために、学びを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。