ハリー・スタック・サリヴァンは1892年2月21日生まれのアメリカの精神科医・社会心理学者・発達心理学者です。
アメリカ・ニューヨークで生まれたサリヴァンは、当初はコーネル大学で物理学を専攻していましたが途中で退学し、後にシカゴ医学校で医学を学び、医師免許を取得します。
医師として、短期間ですが、軍医や産業外科医として勤務した後、セント・エリザベス病院などで精神科医としてのキャリアをスタートさせます。
サリヴァンは精神医学の研究を進めていく過程で、人間の成長や精神疾患の発症に対する文化的な要因との関係性を検討していました。
その中で、1930年代に新フロイト派の精神分析家や社会科学者と親交を持つようになります。
その結果、サリヴァンは、精神医学において重要なのは対人関係であると結論づけることになります。
精神医学を対人関係論として捉え、クライエントの精神病理の理解や治療に対人関係の視点を導入したわけです。
また、観察者としての治療者は自らの存在の影響を排除してクライエントを観察することはできないという「関与しながらの観察」(participant observation)の概念を確立させます。
サリヴァンは1943年にWilliam Alanson White Instituteを設立しました。
これは、アメリカにおいて、第二次大戦以降の精神科医・精神分析家・ソーシャルワーカーなどの心理支援職にとっての重要な訓練の場となりました。
また、サリヴァンは重症の統合失調症患者に対する治療・支援においても大きな功績を残しています。
サリヴァン自身が設計した急性期病棟プログラムにおいて、約70%近い統合失調症の寛解を実現させました。
サリヴァンは精神医学における治療・支援に発達心理学的なアプローチを導入したことでも知られています。
サリヴァンの発達論的アプローチでは、人間が生まれた後に他者とどのような関係性を構築するのかによって、以下のような5つの発達段階を仮定しました。
快楽(食欲を満たすなど)を与える絶対他者との関係性を重視する段階で、この時期の体験様式を「宇宙的融即」と定義しています。
同居する家族である第一次集団との対人関係や交流を重視する段階であり、特に支配/服従関係を中心にした交流が形成されます。
この時期に、精神発達遅滞を伴わない対人関係の障害という意味合いで「精神病質の幼児」という概念・用語を精神医学に取り入れました。
この概念は現在における神経発達症(発達障害)や自閉スペクトラム症に該当するものです。
また、この時期には、フロイトの理論における「去勢不安」に近い状態が発生するとしています。
小学校への就学によって家族以外の人間との交流がスタートする段階で、書籍やインターネット、伝聞を通じて、間接的な他者との交流が可能となるとされています。
また、この段階で経済的な格差や人種的な問題などを意識することができるようになります。
性の葛藤、特に同性・同年代の集団における性の取扱いが主題となる段階で、前青年期・青年期中期・青年期後期の3つの下位区分があります。
そして、性的な葛藤を対人関係の中で満足に昇華できた場合には、次の発達段階である成人期の段階へと移行するとされています。
サリヴァンは社会心理学や発達心理学を精神分析の理論と上手く融合させながら、精神医学・心理カウンセリングを新たな段階へと進めることに貢献しました。
サリヴァンは科学的で学際的なアプローチを重視し、精神保健の国際化や精神医学における操作的診断基準の導入、地域精神医療の体制化などを推進し、現代の精神医療の基礎を築きました。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部 「つぶやきコラム」は、医療・福祉・心理学・メンタルケアの通信教育スクール「TERADA医療福祉カレッジ」が運営するメディアです。 医療・福祉・心理学・メンタルケア・メンタルヘルスに興味がある、調べたいことがある、学んでみたい人のために、学びを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。