心理カウンセリングにおいて、心理カウンセラー側の基本的な技法・態度として広く実施されているものに、来談者中心療法(クライエント中心療法)があります。
これは、カール・ロジャーズにより創始された心理療法で、それまでの伝統的な指示的療法や解釈的な精神分析療法に対して「クライエントに指示を与えない」という特徴を持つものです。
来談者中心療法(クライエント中心療法)では、抱えている問題は何か、どうしたら解決できるのかを最も良く知っているのはクライエント自身であるという考えに基づいて、心理カウンセラーはクライエントに何かを教える必要はなく、クライエントの体験を傾聴し、その体験を尊重することが重要であるとしています。
この来談者中心療法(クライエント中心療法)からは、様々な心理療法が派生的に誕生していますが、その中でも代表的なものとして、フォーカシングがあります。
フォーカシングはアメリカの哲学者・臨床心理学者であるユージン・ジェンドリンが提唱した体験過程理論に基づいた心理療法です。
ジェンドリはオーストリアのウィーンで生まれました。
ちなみに、オーストリアのウィーンは精神分析療法を創始したフロイトが活躍していた場所でもあります。
ジェンドリはアメリカに渡った後、シカゴ大学で哲学を学び、それからカール・ロジャーズのもとでカウンセリングについて学びます。
そして、1958年に『象徴化における体験過程の機能(“The function of experiencing in symbolization”)』というテーマの学位論文で博士号を取得しました。
さらに、1961年にウィスコンシン大学の精神医学研究所の所員となり、精力的に心理カウンセリングの研究を実施しました。
ジェンドリンはカール・ロジャーズの下で来談者中心療法(クライエント中心療法)について学ぶ中で、カウンセリングのプロセスにおいてクライエントが主観的かつ具体的に感じている体験の流れに注目しました。
ジェンドリンはクライエントの感じている体験は時々刻々と変化していく現象ではあるものの、言葉では明確に表現することができない場合が多いということに気づきました。
しかし、クライエントが明らかに感じている前概念的(明確に言語化できない)な体験こそが、クライエントの内的な変化を引き起こすベースになるのではないかと考え、心理カウンセリングに活用していくために研究をスタートさせました。
ジェンドリンは心理カウンセリングが成功するか否かは、クライエントの感情体験と強い関連性を持つと考え、この感情は身体感覚としてクライエントに体験されていると仮定しました。
不明瞭ではあるが非常に重要である体験過程を明確化する過程をフォーカシングとよび、ジェンドリンはこれを心理カウンセリングの1手法として確立させていきました。
悲しい時に胸が押しつぶされるように感じなどのように、ある特定の状況における身体感覚があり、これをフェルトセンス(felt sense)とよびます。
フェルトセンスが志向しているものに気づき、それを手に入れると体験の意味自体が変化していきます。
これを推進(carrying forward)とよびます。
クライエントの中で体験の意味が変化する際に「これだ!」という感覚を得ることができるわけですが、これをフェルトシフト(felt shift)とよび、この状態へとクライエント自身の気づきを促し、変化を推し進めていくのがフォーカシングなのです。
フォーカシングでは、クライエントの体験が何を志向し、どうすれば推進されるのかについて、積極的に取り組んでいきます。
そして、クライエントのフェルトシフトを観察することにより、その選択が本来の志向であったかどうかを知ることができます。
このようなフォーカシングの特徴から、問題とその解決について最もよく知っているのはクライエント自身であるというロジャーズの考え方(来談者中心療法・クライエント中心療法)と共通する部分が多いものとなっています。
その後もジェンドリンはフォーカシングに関する研究を続け、確立された心理療法として、フォーカシング指向心理療法を提唱しています。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部 「つぶやきコラム」は、医療・福祉・心理学・メンタルケアの通信教育スクール「TERADA医療福祉カレッジ」が運営するメディアです。 医療・福祉・心理学・メンタルケア・メンタルヘルスに興味がある、調べたいことがある、学んでみたい人のために、学びを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。