心理学の一分野として、産業・組織心理学があります。
2017年9月初旬に産業・組織心理学会の年次大会が開催されており、様々な研究成果の発表が実施されました。
産業・組織心理学とは、本来は「産業心理学」と「組織心理学」の2つの分野から構成されているものです。
産業心理学は、産業活動全般を対象とするものであり、そこで発生する様々な問題を心理学的な見地から検討するものです。
産業心理学は心理学者のミュンスターベルクから始まったとされています。
ミュンスターベルクは最適な人材配置、仕事のパーフォーマンスを高める要素、人間が仕事をすることで発生する経済効果という3つを主な対象として研究を進めていきました。
その後、これらの研究領域は、産業心理学の中の下位領域として、人事心理学、人間工学、マーケティングなどへと発展・細分化していきました。
また、第一次世界大戦の勃発により、兵士の選抜や軍需工場労働者の能率、戦後の除隊兵の復職などが社会問題となったことも、初期の産業心理学の形成に大きな影響を与えたとされています。
さらに、アメリカのウェスタン・エレクトリック社ホーソン工場で実施されたホーソン研究により、態度や感情、欲求、集団規範などの社会心理学的な視点を産業場面に取り入れることの重要性が明らかとなりました。
ホーソン研究移行、仕事に対する動機づけや職場におけるリーダーシップ、小集団の機能などの集団・組織に関わる重要な研究テーマを生み出されていきました。
厳密な意味では産業心理学とは区別される分野として、組織心理学があります。
第二次世界大戦後、技術のめざましい進歩は産業場面に革新をもたらしました。
しかし、その結果として、人間と道具・機械との不適合が問題となることも増えました。
そこで、工学、心理学、医学、建築学などの学際的協力のもとに人間工学が誕生しました。そして、1960年代後半からは、組織に働く人々の行動を個人と組織的環境との相互作用の中で説明しようとする組織心理学への関心が急速に高まりました。
関心の急速な高まりに合わせて、それまでの伝統的な産業心理学に対する批判も展開されました。
組織心理学とは、組織における人間行動について、個人とそれをとりまく組織環境との相互依存的関係のなかで理解することを目的とするものであり、それまでの産業心理学では、雇用や採用、配属における選抜や仕事に関する訓練、仕事の適性といった問題は、従業員個人を職務にどう当てはめるかという枠組のなかで考えられてきました。
しかしこうした問題は、実は集団の特性や組織風土、組織構造といった個人をとりまく組織環境と密接に関わっているため、組織成員の行動は、組織と個人との相互作用の中で捉えていくことが必要であることが分かりました。
組織心理学の専門家である心理学者のシャインは、組織は複雑な社会的システムであり、組織における個人の行動は、この社会的システム全体を考慮に入れて理解されねばならないということを強調しています。
組織心理学は産業心理学を母体とするものではありますが、その学問的背景には行動科学、社会学、社会心理学、経営学をはじめとする文化人類学や政治学など隣接諸科学と緊密な関係があります。
組織心理学が研究対象とするのは、個人と組織との相互作用過程という枠組に基づいた、仕事の動機づけ、組織構造、リーダーシップの影響過程、組織コミュニケーション、意思決定、組織活性化、組織開発など多岐にわたります。
ここに至る段階で「産業心理学」と「組織心理学」は統合されていき、アメリカ心理学会(APA)では、1973年に第14部会「産業心理学」の名称が「産業・組織心理学」と改称され、学会における正式な部門として認知されるようになりました。
同様に日本でも、1985年に産業・組織心理学会が発足し、人事、組織行動、作業、市場の4部門に分かれて研究活動が展開しています。
s
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
「つぶやきコラム」は、医療・福祉・心理学・メンタルケアの通信教育スクール「TERADA医療福祉カレッジ」が運営するメディアです。
医療・福祉・心理学・メンタルケア・メンタルヘルスに興味がある、調べたいことがある、学んでみたい人のために、学びを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。