心理学の入門編として、まずはどんな勉強をして、何ができるようになるのでしょうか。
心理学には様々な分野がありますが、基礎・応用・臨床に3つに大別できます。では、心理学の入門として、基礎心理学では何を学ぶのでしょうか。
基礎心理学の1つに学習心理学というものがあります。
学習というと、勉強やテストというイメージがあるかもしれません。
しかし、学習心理学における“学習”とは、勉強だけに限らず、人間の全ての“新たな行動の獲得”のことを意味します。
そして、人間だけに留まらず、動物の反応・反射・行動についても新たに獲得される過程のことを“学習”と定義しています。
学習心理学は別名、行動分析学ともよばれます。学習心理学(行動分析学)の研究が進むことで、心や精神は“目で見て観察・確認できる”という考え方が広がっていきました。
つまり、頭で何を考えていても、心の中で何を感じていても、それは最終的に“行動”や“反応”という形でアウトプットされるものであり、最終的に出てきた行動や反応を観察することで、人間の心や精神を理解することができるというわけです。この考え方は行動主義とよばれています。
学習心理学(行動分析学)では、人間だけではなく、動物の行動や反応についても研究しています。
初期の学習心理学(行動分析学)の研究はラットやハトに対する実験に関するものが多いのです。
動物に対して条件づけの実験を繰り返すことで、新しい行動を獲得し、レパートリーが増えていくことが判明しました。
ラットであれば、レバーを押すという行動、ハトであればボタンをくちばしでつつくという行動を獲得できます。
そして、さらに発展して、レバーであれば右のレバーだけを30回押す、ボタンであれば赤色のボタンはつつかずに緑色のボタンだけをつつくというような、少し複雑な行動も獲得することができるのです。
心理学の基礎分野の中に、認知心理学とういものがあります。
認知心理学は物事の捉え方や考え方と心の関係についての分野です。
物事を捉える・考える前に、私たちはそれらを知覚しています。
知覚とは目で見ることや耳で聞くことなどです。
まず、目で見たり、耳で聞いたりすることから、私たちの心の動きはスタートしています。
その上で見たこと・聞いたことをどのように捉えるのかが非常に重要となります。
ストレスを感じるか感じないかも、見たり聞いたりした出来事をどう「認知」したのかによって決まります。
同じ出来事や状況で、同じものを見て、同じものを聞いたとしても、それをどう捉えるのか、どう考えるのかは、人によって異なるのです。
これはストレスに関しても重要であり、同じ出来事を経験・体験したとしても、それをストレスと感じるかどうかは、認知様式次第であるということが判明しています。
心理学の基礎分野の中に、生理心理学とういものがあります。
生理心理学の代表的な研究テーマにストレスがあります。
ストレスという言葉はよく耳にすると思いますが「結局、ストレスって何なの?」と思っている人は多いのではないでしょうか。
生理心理学は古くからストレスの研究をし続けている分野なのです。
生理心理学において、ストレスとは「身体的・精神的な安定に影響を与える出来事の総称」と定義されています。
ストレスの原因となるものはストレッサー、ストレッサーへの抵抗から身体・心に現れるものをストレス反応とよびます。
人間の精神状態はゴムボールに例えることができます。
ストレスの無い状態では凹みや歪みの少ない球体ですが、ストレッサーが出現することによって、圧力を受けた分が凹んだり歪んだりします。
しかし、人間の精神はゴムボールのように弾力性があるので、ストレスの無い状態に戻ろうとする機能があります。
このストレッサーに抵抗して元の安定した状態に戻ろうとする作用をストレス反応とよびます。
ストレッサーの出現によって、ストレス反応が生じるわけですが、このストレス反応によって人間の身体には様々な変化が起きます。
心理学において、特に生理心理学という分野で人間の身体とストレスの関連について研究がおこなわれ、ストレス反応の影響は筋肉、骨格、内臓、神経、血管など様々な部位におよぶことが分かっています。
そして、最新の心理学研究の結果、ストレスの影響は人間の考え方や物事の決め方にも影響を及ぼすことが判明しています。
慢性的なストレスと、それに伴ううつ病などの精神疾患になると、物事を決めるのに時間がかかり、間違った選択や決定をしてしまうことが増えることが判明しています。
そして、それが新たなストレスとなるという悪循環を引き起こすわけです。さらなる研究の結果、慢性的ではなく、短期的なストレッサーであっても、その影響からリスキーな選択をしてしまう傾向が強くなることも判明しています。
また、生理心理学はストレスとは逆の状態であるリラックスについても研究しています。「全然、リラックスできない」とか「温泉につかってリラックス」のように、リラックスという言葉が日常生活で使われていることが多いかと思います。
では、リラックスとは具体的にはどのような状態なのでしょうか。
一般的に興奮したり、ストレスが発生すると自律神経のうち、交感神経が活性化することが知られています。
交感神経が活性化すると、身体の中では、心拍数・呼吸数の上昇、消化活動の抑制、末梢部分からアドレナリン様の物質を放出とそれによる各器官を刺激などが起きます。
逆にリラックスして、安静な状態になると、自律神経のうち、副交感神経が活性化します。
副交感神経が活性化すると、瞳孔の収縮・心臓血管系の抑制・消化吸収の活発化・汗や唾液の分泌亢進などが起きます。
リラックスしていて、安静状態であるということは、緊急事態ではないので「特に何かに注意を払う必要がない」ということになります。
そのため、目で何かを必死で追ったり、多くの情報を目から取り入れる必要がないので、瞳孔が収縮します。
そして、身体を激しく動かす必要がないので、心臓血管系の抑制が起こります。同様に、休息や睡眠中、入浴中は副交感神経が優位に働くことになります。
交感神経と副交感神経はバランスを取って活性・抑制を繰り返しています。
基本的には交感神経が活性化していれば、副交感神経は抑制されます。
逆に副交感神経が活性化すれば、交感神経は抑制されます。
そのため、どちらか一方が活性化すれば、残りの一方が抑制されることになります。
このメカニズムを利用して、身体をリラックス状態に導く方法として、自律訓練法というものがありますが、これも生理心理学の研究成果に基づいて開発されたリラクゼーション技法です。
心理学の基礎分野の中に、知覚心理学とういものがあります。
知覚とは、目・耳・鼻・舌・皮膚のいわゆる五感のことを指します。
科学的な心理学の幕開けに大きく貢献したとことで知られる、心理学者のヴィルヘルム・ヴントが実験心理学という領域をスタートさせた当初から、知覚に関する心理学的研究は盛んに実施されています。
従って、知覚心理学とは心理学の基礎中の基礎と考えることができます。
心理学の基礎分野の中に、社会心理学とういものがあります。
心理学には様々な分野がありますが、基本的には「一個人の心の過程」を対象としています。
しかし、私たちは周囲の他者から多くの影響を受けています。
周囲の他者というものをより大きな枠組で捉えると、集団や社会ということになります。このように、一個人ではなく、それを取り巻く周囲の集団や社会を対象とするのが社会心理学という分野です。
社会心理学では、個人が集団や社会からどのような影響を受けるのかを検討するものと、前述のように集団や社会などの「複数の人間」の心理について検討するものの、大きく2つに分かれます。
集団や社会が個人の心理過程に及ぼす影響に関しては、自己・態度と態度変容・対人認知などがあります。自己とは、「自分とは何か?」ということですが、この自己も「他者との関係の中での自分」というものであり、本当に自分ただ一人では自己というものを確立できないわけです。
態度や態度変容とは、他者とのかかわり方に関するものであり、「人によって態度を変える」などがそれに当たります。
対人認知とは、他者に対する認識のことであり、これも他者との関係の中で成立するものです。
また、他者との関係においては、攻撃・援助・説得・対人魅力・対人コミュニケーション・対人関係などもあります。
攻撃も援助も「攻撃する相手」や「助ける相手」がいなければ成立しません。
同様に説得も「説得する相手」がいなければ成立しません。
対人魅力や対人関係、対人コミュニケーションも必ず誰か「相手」がいるわけです。
これら全ての事柄が他者および社会との関係において初めて発生するものであり、社会心理学の研究対象となります。
さらに、集団の心理的過程に関しては、集団の構造や機能・社会的勢力・リーダーシップ、偏見・差別・協力と競争・取引・交渉・流言(うわさ)の普及過程・消費や購買行動などが挙げられます。
これらの、個人が集団から影響を受ける部分もありますが、人が複数になった時にどのような心理的な変化が起きるのかを検討するものが多くあります。
そして、社会心理学は「2人以上の人」を「社会」として捉えるので、実に様々な領域に及ぶものとなっています。
たとえば、環境や法律・裁判、健康、教育、臨床・カウンセリングなどにおいても、社会心理学の研究対象となっています。
心理学の基礎分野の中に、感情心理学とういうものがあります。
一言で「感情」といっても、日本語も外国語も実は関連する用語が多種多様であり、感情をどの範囲に規定するか、また用語をどのように用いるかによって、ニュアンスが異なるものとなっています。
たとえば英語では「 emotion 」という用語が一般的に用いられますが、「 affect 」という言葉もあり、「 emotion 」の上位概念が「 affect 」であると見なす場合があります。
日本では「 emotion 」という用語における動的な側面を強調する場合は「情緒」や「情動」と訳し、「 feeling 」を「感情」と訳すことが一般的でした。1992年に発足した日本感情心理学会において「 感情 = emotion 」を学術用語として使用すると定義しています。
ただし、日常用語として用いられる「感情」は感情の意識化された主観的成分を強調して用いられる場合が多く、emotionというよりaffect(affection)や feelingといった英語に近い意味で用いられる場合が多いという違いがあります。
また、私たちは何かしらの出来事を知覚(見聞き)し、その出来事について評価(自分にとって都合が良い・都合が悪い)します。
そして、都合が良ければポジティブな感情、都合が悪ければネガティブな感情が発生します。
つまりは、突然、感情だけがフッと湧き出すということはまずなく、何らかの出来事とそれに対する認知というプロセスが感情の発生にとって欠かせないものであるということになります。
出来事・認知は「感情の発生する前」に関する事柄ですが「感情が発生した後」の事柄も重要です。
特定の感情が特定の行動を発生させることがあります。
たとえば、怒りの感情は攻撃行動と関連が強く、恐怖の感情は逃避行動を引き起こすことが多いものです。
学習心理学は行動に関する心理学であり、より適切な行動の増加・維持や不適切な行動の減少・消去に役立てられています。
これは行動療法として、カウンセリング場面でも活かされていますが、より日常的な仕事やスポーツなどの場面にも活用されており、これは応用行動分析とよばれています。
応用行動分析には、禁煙・ダイエット・貯金などの、私たちが「苦手」とする行動を習慣化させる方法などが含まれています。
学習心理学を勉強することで、日常生活をより豊かなものにし、自分で自分をコントロールできるようになる可能性が高まります。
認知心理学が取り扱うのは記憶・思考・判断・評価・推論などの人間の認知機能です。
人間の認知機能は“なるべく早く”、“なるべく労力をかけずに”、情報を処理しようとする傾向があるため、誤りや歪みなどが発生することが多いということが判明しています。
認知心理学は人間の陥りやすい誤りや歪みを研究によって明らかにすることで、それらを未然に防いだり、より正しい方向へ導くサポートをすることが可能となると考えられます。
認知心理学について勉強することで、情報処理能力が向上し、問題解決能力を向上させることができます。これは、知能が向上するというよりも、自分が陥りやすい「思考のワナ」に気づきやすくなり、間違った判断を回避することができるようになるというニュアンスです。
認知心理学の知識は、私たちの生活をよりスマートにしてくれるわけです。
生理心理学は人間の【身体】・【精神】のつながりを正確に理解し、それを数値化・可視化して、誰でも自分の現在の状態を分かり易い方法で確認できるようにすることを目指しています。
これは、身体状態・精神状態の正確な数値化・可視化は、病気の診断や治療だけではなく、予防においても非常に重要な示唆を与えてくれるものであると考えられます。
生理心理学を勉強することで、ストレスと自律神経の関係性や、ストレスと病気の関係性に関して、科学的に正しく理解することができます。
そして、自分自身で心身の健康状態を維持させるセルフケアのスキルを身に着ける上でも、生理心理学の知見は重要なものとなるでしょう。
知覚心理学は目・耳・鼻・舌・皮膚という、私たちの生活にとって重要な五感に関する心理学です。
知覚心理学について勉強することで、私たちは世界をどのように感じ取っているのかということをより正確に理解することができます。
そして、目や耳などの健康がいかに重要なのかということも、同時に理解できるのではないかと思います。
目や耳の健康を良好な状態で維持することができれば、ある程度、高齢になったとしても、より良い生活を送ることができると考えられます。
社会心理学は他者との関係性や集団と個人の心理的過程の違いについて、様々な知見を与えてくれる分野です。
また、社会心理学は、“今、社会で起きていること”が“なぜ、起きているのか?”について、心理学的な観点から研究し、個人の心理的過程がどのように集団へと広がり、最終的に地域や国などの社会へと拡大していくのかを正確に理解することに役立てられています。
さらには、1対1などの少数の集団においても、より良いコミュニケーションを図るにはどうすればいいのかという知見も与えてくれるものです。
社会心理学について勉強することで、円滑なコミュニケーションを図る方法を学ぶことができます。
そして、常に自分と相手を尊重した態度で接することもできるようになるでしょう。
これはビジネスの場面でも重要な要素であり、職種や業種を限定せず、あらゆる仕事の場面で活用できるスキルを身に着けることができるのではないかと思います。
感情心理学は「気持ち」というものについて、科学的に正確な理解を促進する知見を有しています。
そして、感情心理学を勉強することで、自分の感情や他人の感情を正確に理解することができるようになります。
人間は他者の感情というものを重視する生活を送る生物であるとされています。
これは社会生活全般において、感情理解というものが非常に重要であるということを意味しています。
また、怒りや不安、抑うつなどのネガティブな感情に、いかに振り回されないようにするかについても学ぶことができます。
自分で自分の感情をコントロールするということも、セルフケアの観点からは非常に重要であり、感情心理学の知見はそこにも活かすことができます。
いかがだったでしょうか。基礎的な心理学を入門編として学ぶことの意義を御理解いただけたのであれば幸いです。なお、基礎的な心理学について勉強したいという方は、こころ検定4級を勉強してみていただければと思います。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
「つぶやきコラム」は、医療・福祉・心理学・メンタルケアの通信教育スクール「TERADA医療福祉カレッジ」が運営するメディアです。
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