日本における心理学関連の学術学会の中で、現在最も多くの会員数を誇るのが日本心理臨床学会です。
2万人を超える会員数を誇る日本心理臨床学会は、主に臨床心理士資格を有する心理カウンセラーおよび臨床心理学を専門とする大学教授や学生などで構成されています。
2017年は11月に年次大会が開催され、多くの臨床心理学やカウンセリングに関する研究発表や講演が実施される予定となっています。
日本心理臨床学会の誕生過程には、紆余曲折がありました。
1950年に東京で臨床心理研究会が発足し、続いて関西地方の研究者や実践者を中心とした関西臨床心理学会が1951年に発足しました。
また、1930年代に発足した日本応用心理学会が戦争の影響で学会事業の中断を余儀なくされていたのですが、1946年3月に学会事業を再開し、1953年に日本応用心理学会に臨床心理部会が設置されました。
この部会設置が全国規模のカウンセリング・メンタルケアに関する初の学術団体の発足であるとされています。
欧米の臨床心理学の研究成果の導入と国内の学術団体の組織化が進む中で、本格的な全国規模の学会組織の発足準備が行われていました。
1964年6月に関東と関西の臨床心理学関連の協会が発展的に統合され日本臨床心理学会が誕生しました。
ここで初めて臨床心理学における実践活動である心理カウンセリングを行う専門職としての心理カウンセラーに注目が集まりました。
ここから、心理カウンセラーの地位を確立するための活動が始まります。
一方で、1964年に発足した日本臨床心理学会は日本精神医学会らと協力し、心理技術者の資格認定機関の設立の準備を開始しました。
これが臨床心理士の誕生のきっかけとなる出来事です。
しかし、資格認定に関して学会内部でも様々な意見が出された結果、学会が紛糾し、臨床心理学の学問としての方向性までもが迷走することになってしまいました。
その結果、1973年に日本臨床心理学会は会員数が激減し、学術団体としての活動が縮小されてしまいました。
その後、日本臨床心理学会は関東地方を中心に学術的・対人支援事業的な側面よりも、社会運動的な活動を強くしていきました。
一方で、同時期に京都大学に着任した河合隼雄がユングの分析心理学や箱庭療法を広め、広島大学に着任した鑪幹八郎が新フロイト派の精神分析療法やエリクソンの発達心理学の理論を広め、九州大学に着任した成瀬悟策がイメージや催眠を用いた臨床動作法を確立するなど学術的・対人支援事業的な動きが盛んになりました。
これら関西・中国・九州地方の専門家を中心に「心理臨床家の集い」が1979年から開催され、これが発展する形で1982年に日本心理臨床学会が発足しました。
現在でも“心理臨床”と“臨床心理”という非常によく似た名称の学術団体が存在しているのは、このような経緯からです。
そして、1988年に日本臨床心理士資格認定協会が発足し、臨床心理士の認定事業が本格化しました。
翌年の1989年には日本臨床心理士会と名称を変更し文部省(現在の文部科学省)からの認可を受け、社会制度として臨床心理士の資格制度が確立しました。
また、同じく1990年には各都道府県単位の臨床心理士会が発足し、現在では47都道府県の全てに臨床心理士会があり、盛況に活動をしています。
心理カウンセラーとしての制度が1つ確立したことで、今度は精神科医や看護師などの他の領域の専門化との連携や役割分担について検討する必要が生じ、厚生省(現在の厚生労働省)において臨床心理士の資格に関する様々な協議が実施されるようになりました。
この臨床心理士資格の誕生と資格取得者の増加が、日本心理臨床学会の発展を大きく支えているといえるでしょう。
心理カウンセリングとは、基礎心理学の知識とカウンセリングの技術だけではなく、日々の研究活動が非常に重要なものです。
日本心理臨床学会は、そんな科学者-実践者モデルを踏襲した心理カウンセラーにとって欠かすことのできない学術団体となっています。
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