心理学の一分野に学習心理学というものがあります。
学習というと、勉強やテストというイメージがあるかもしれません。
しかし、学習心理学における“学習”とは、勉強だけに限らず、人間の全ての“新たな行動の獲得”のことを意味します。
そして、人間だけに留まらず、動物の反応・反射・行動についても新たに獲得される過程のことを“学習”と定義しています。
学習心理学は別名、行動分析学ともよばれます。
日本には、日本行動分析学会という学術学会があり、精力的に研究活動をしています。2018年度は8月に年次大会が開催されています。
心理学における学習の研究は、エビングハウスの無意味綴りによる記憶の実験が最初であるとされています。
記憶も“それまで覚えていなかった文字や記号”を“新たに覚える・獲得する”という過程を経ているので、広い意味で学習心理学の領域といえるでしょう。
その後、20世紀初頭にかけて実施された生理学者・心理学者のパヴロフが犬を使った実験で明らかにした条件反射に関する研究は、学習心理学の基礎の重要な1つとなっています。
パヴロフはメトロノームによる音の刺激が犬の唾液分泌を促すという“新たな反応の獲得”を導いたことを明らかにし、ノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
また、ソーンダイクがネコを使った問題箱における試行錯誤学習の研究、ケーラーのサル(チンパンジー)を使った洞察学習の研究などが、初期の学習心理学の研究として非常に有名です。
これらの研究成果の蓄積から、心や精神は“目で見て観察・確認できる”という考え方が広がっていきました。
つまり、頭で何を考えていても、心の中で何を感じていても、それは最終的に“行動”や“反応”という形でアウトプットされるものであり、最終的に出てきた行動や反応を観察することで、人間の心や精神を理解することができるというわけです。
この考え方は行動主義とよばれ、心理学者のワトソンが提唱したものであり、ワトソン自身も嫌悪学習の実験で有名です。
その後、行動主義の考え方はさらに発展・継承されていきました。
行動主義からさらに発展した理論を展開させたのは、ハル、トールマン、ガスリー、スキナーなどの学習心理学者であり、彼らが展開・発展させた理論は新行動主義とよばれています。
新行動主義は全体的行動(モル行動)としての学習過程を包括的に説明しようとする大理論(グランド・セオリー)として確立されていきました。
しかし、大きな規模の理論にはつきものですが、様々な論争も起きました。
新行動主義では、刺激 = 反応理論(S-R説)という理論と、認知理論(S-S説)の2つの代表的な理論があり、この2つの理論が激しくぶつかり合うことになりました。
刺激 = 反応理論が学習の本質を刺激と反応の結合とするのに対し、認知理論は刺激と刺激(信号と信号対象)の結合あるいは認知構造の変化であると定義しています。
前者の理論に基づいて学習心理学を展開させたものとして、ソーンダイクの結合説、パヴロフの古典的条件づけ、ワトソンの行動理論、ガスリーの接近条件づけ、ハルの体系的行動理論、スキナーのオペラント条件づけ、エスティスの刺激抽出理論などがあります。
それに対して後者は、トールマンのサイン学習、ケーラー、コフカ、レヴィンらのゲシュタルト学習理論があります。
また、ソーンダイクの提唱した効果の法則やハルの動因低減説のように、学習には強化が不可欠であるという強化説が根強くある一方で、学習は接近だけで成立し強化を必ずしも絶対条件ではないという接近説があり、この2つの理論展開も論争をよびました。
このように、様々な論争をよんだ学習心理学ですが、現在では、論争の中から生まれ、整理された理論が心理カウンセリングにおける行動療法や応用行動分析などに活用されています。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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