行動療法は、1950年代末から1960年代初頭にかけて確立された心理療法であり、基礎心理学である学習心理学(行動分析学)の研究知見に基づくカウンセリング手法です。
行動療法は、それまで主流であった精神分析療法の基本的な考え方である「問題行動の根底に無意識の関与を仮定する」ことへの科学的実証性への疑問、および精神分析の理論の妥当性への疑問、さらには、その治療・支援効果についての疑問など、様々な問題提起に対する1つの「答え」としてスタートしました。
行動療法は、心理カウンセリングとは、もっと実証的に検討された事実に基づき、科学的に体系化されるべきであるということを強く主張するものです。
より具体的な行動療法の背景にある考え方は、以下のようなものになります。
1. 人間は出生直後、ほんのわずかな行動しか身につけていない。
2. その後、成長するにつれて膨大な行動レパートリーを身につける。
3. 行動レパートリーのほとんどは、経験や練習によって学習・獲得される。
4. 従って、問題行動や不適応行動の発生メカニズムやその行動修正法は、学習という視点から治療・支援および技法を構築すべきである。
このように、行動療法は心理的な問題の治療・支援を論理的に突き詰めて考えるという点で、他の多くの心理療法が主に臨床の場での経験を土台に理論や技法を構築しているという部分で大きく異なっています。
行動療法は、実験室で人間だけではなく、犬やラットやハトなどの動物を用いた研究によって明らかになった行動・反応の学習に関する原理を心理療法へ適用するものです。
行動療法という用語を初めて使用したのはリンズリーらであり、精神疾患のクライエントに対して、より良い行動を形成するために、学習心理学の基礎概念であるオペラント条件づけの手続を応用しました。
この研究成果が1953年に発表され、その研究報告の中で「行動療法」という用語が初めて使われました。
次いで、ドイツの心理学者ハンス・ユルゲン・アイゼンクが精神分析療法の治療効果への疑問から、双極性障害や抑うつ障害(うつ病)に対する行動療法の有効性に関する研究にも従事し、行動療法の専門家となりました。
さらに、南アフリカの精神科医ジョセフ・ウォルピは第二次世界大戦中に心的外傷後ストレス障害(当時は戦争神経症)の治療に従事し、その過程でレスポンデント条件づけ(古典的条件づけ)を治療に応用することを考えました。
ウォルピはパヴロフの犬を対象とした実験や自身の猫を対象とした実験から、実験神経症の概念とその消去方法を人間に応用し、行動療法の技法の系統的脱感作法を開発しました。
現在も研究・発展を続ける行動療法は、以下のような問題に効果的であることが示されています。
1. 神経発達症児の行動改善・支援
2. 限局性恐怖症・適応障害の軽減・治療
3. 薬物依存・ギャンブル依存に対する援助
4. 運転中のシートベルト着用率の増加
5. 作業中の事故の防止
6. コミュニティにおける好ましい行動増加
7. 動物のしつけ・訓練
8. 各種スポーツ競技の技能習得・向上
行動療法は徹底したデータ主義に基づくものであり、行動・反応を数値化し、問題行動の減少や必要な行動レパートリーの増加が「数字で見て分かる」という状態を目標としています。
そのため、ベースラインという「何の介入もしない段階」を設定することが多いです。
「何の介入もしない段階」で、行動がどのように生起しているのかをデータとして収集し、その上で適切な介入をすることで「どう変化するのか?」を見極めるという過程を経ていくわけです。
ただ介入するだけでは、厳密な変化が分からないので、まずは「何もしない状態」をしっかりと把握するわけです。この厳密さが行動療法の特徴であると同時に、その高い治療・支援効果の裏付けとなっているのです。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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