個人で何かを考えて決めるより、みんなで意見を出し合って決める方が何かと「良いこと」のように感じる人は多いのではないでしょうか。
「三人寄れば文殊の知恵」という諺からも分かるように、日常生活では集団での意思決定の重要性が強く浸透しています。
しかし、本当にどのような状況下でも「三人寄れば文殊の知恵」のように、みんなで意見を出し合うことがベストな形なのでしょうか。
心理学では、その点に関して主に社会心理学の観点から検討しています。
集団意思決定とは、複数の人々が合議により共通の決定を下す事態のことを指します。
ただし、投票による集合的決定とは異なり、グループのメンバー間での合意形成のための直接的な相互作用(コミュニケーション)を前提とするものです。
現実社会における集団意思決定の重要性と併せ、グループ・ダイナミックス研究における中心的なテーマの一つとなっています。
また、集団意思決定の性質上、心理学単体ではなく、政治学・経済学・経営学等の他の社会諸科学と関心を共有する面も非常に多いものです。
集団意思決定に関する研究には多様な要素があります。
たとえば、個人の意思決定に比べ集団の意思決定がより極端なものになる集団極性化現象、選択のシフト現象などの分析があります。
一般的には、個人のもつ様々な選好が集団決定に集約される社会過程のモデル化や、決定結果に対する個人の受容・態度変容などが中心的な研究課題とっています。
社会過程のモデル化については、デーヴィスが提唱した社会的決定図式理論に代表される数理モデル的な方法が採られることが多いです。
デーヴィスのモデルは、決定課題に対してもつ人々の意見や判断が集団決定に社会的に集約されるプロセスを、投票モデルとの類比により体系的に分析しています。
これらの研究により、集団意思決定の結果が初期多数派の主導する選択肢の方向でよく近似されることが明らかにされています。
前述の集団極性化現象なども、この多数派主導原理により基本的に説明できるとされています。
また、近年では集団内での知識の共有化や、決定の操作可能性などをめぐって、新たなモデルが開発されています。
決定結果に対する個人の受容・態度変容の研究については、レヴィンの集団決定法に代表される個人の態度変容の媒体としての集団討議・決定の機能が検討されています。
また、受容性に関する側面は、手続的正義の問題とも密接な関わりを持つことも判明しています。
集団意思決定において注意しなければならないのは、個人による意思決定よりも極端になり易いということです。
前述の集団極性化とは、まさにそのことを指しています。
この集団極性化には2つの方向性があります。
個人で単独に決定を行った場合よりも、集団討議を経た後の決定の方が、より危険性の高い勇ましい(リスキーな)決定になってしまうこと。
これは,選択葛藤問題とよばれる一連の問題項目を用いた研究で見出されており、当初予測された集団や官僚制の保守化傾向とは異なる結果となりました。
その理由として、集団によって、勇ましい議論が出がちであること、責任の分散が生起することなどが考えられます。
リスキー・シフトとは逆で、場合によっては集団の方がより慎重な(コーシャスな)決定がなされることもあります。
研究の結果、コーシャス・シフトも、個々人がもともともっている傾向が集団全体としてより強められる集団極性化の一つと考えられるようになりました。
リスキー・シフトとコーシャス・シフトはどちらも集団極性化に関するものですが、真逆の現象であるといえます。
更なる研究の結果、この2つの現象は、元々リスキーな項目は討論後よりリスキーに、元々コーシャスな項目は討論後よりコーシャスになるという傾向が判明しています。
集団意思決定などの集団の心理学については、こころ検定1級(メンタルケア心理専門士)のテキストである精神予防政策学の第1章で概観していますので、興味・関心のある方は、是非、勉強してみていただければと思います。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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