心理カウンセリングでは、家族療法というアプローチが実施されることがあります。
家族療法は、家族集団を研究と治療・支援の単位として扱い、個人の問題を家族という脈絡の中で捉えようとするものです。
家族療法が誕生する以前は、心理カウンセリングによる治療・支援の焦点は基本的に個人にのみ当てられていました。
これはカウンセラーとクライエントが1対1で対面でカウンセリングを実施するという意味と、クライエントの主訴がたとえ、家族関係に関するものであったとしても“家族に関する問題を抱えている個人”として意味です。
しかし、こうした“個人のみ”へのアプローチには限界があることから、家族集団の中でその個人を捉え直し、そこにある対人関係のプロセスに注目し、治療・支援につなげていきます。
家族療法はその出発点において、主に精神分析的な家族力動理論を根拠にしていましたが、やがて一般システム理論や、対人関係論、学習理論、行動理論など様々な理論を取り込み、現在では多種多様な理論的枠組をもった治療的アプローチがあります。
より具体的には、アッカーマンによる精神力動的家族療法、パターソンによる行動論的家族療法、ウィタカーらによる体験的家族療法、ボーエンらによる拡大家族システム療法、ミニューチンによる構造的家族療法などがあります。
ただし、実際にはこれらの様々なアプローチは相互排除的なものではなく、共通する部分も多いため、時に統合された形で用いられることもあります。
上記のように家族療法には様々な派生アプローチがありますが、共通する特徴として挙げられるのは、家族をシステムとして捉えるという点です。
システムに関する理論である一般システム理論は、ベルタランフィが初めて提唱した概念で、研究の対象となる存在をその存在とそれをとりまく環境との関係を考慮に入れて理解しようとするものです。
この理論では、システムを「互いに影響し合う要素の複合体」として捉えています。
そして、ベルタランフィはシステムには2種類あるとしており、周囲の環境との相互作用をもつ「開いたシステム」と相互作用を持たない「閉じたシステム」を明確に区別しています。
そして、家族療法では、家族を「開いたシステム」として考え、システム論の基礎概念を多く取り入れているのです。
システムの考え方で家族を捉える家族システム理論では、家族を各部分の特性の総和以上の特性をもつ1つのシステムとして捉えます。
このシステムは、あるルールによって支配されており、全てのシステムは境界を持っているとしています。
その境界は半透性であり、通過できるものとできないものがあるとしています。
また、家族システムは完全にではないものの、比較的安定した状態に立ちいたる傾向があり、そして変化や成長が起こるものであるとされています。
また、家族システムはサブシステムによって成り立っており、家族の中の個人の行動のような事柄は、直線的な因果関係よりも円環的因果関係の例であると見なした方がより理解しやすいと考えられています。
たとえば,息子の不登校は過保護な母親のせいであるというように単純に解釈するのではなく、その背後には夫に頼りたくても頼れないという夫婦間の問題が潜んでいる可能性があります。
これは息子の不登校という問題に対して「頼られる」という機能を持つ夫が「家族というシステム」の中で上手く機能していないということ、そのため母親が夫の持つ機能を肩代わりすることで、親子関係内に「過保護」という状況が発生していると考えられるわけです。
このように、家族療法では、心理カウンセラーはこれらの内のある1つが問題というようには捉えず、全体としての家族にあると考えて対応していきます。
日本には、日本家族療法学会という学術団体があり、精力的に研究活動を実施しています。2018年には年8月10日(金)~12日(日)に年次大会が開催されました。
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