笑いや笑顔はポジティブな感情と関連する表情・行動です。
そして、笑いや笑顔は私たちにとって、重要なコミュニケーション手段の1つでもあります。
そのため、心理学では、生理心理学や感情心理学、社会心理学などの観点から笑いや笑顔についての研究が実施されています。
生理心理学の観点からの研究として、顔面フィードバック仮説という説が唱えられています。
これはトムキンスによって提唱された身体反応と感情に関する理論であり、顔の表情に関連する筋肉の反応を受けて、その後に感情が生起するという仮説です。
つまり、体が先で心が後ということであり「悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しいのである」というジェームズ・ランゲ説(感情の末梢起源説)の発展型ともいえる仮説・理論なのです。
ジェームズ・ランゲ説(感情の末梢起源説)は身体部位のどの部分でも必ず身体反応が感情に先行して変化するというものですが、顔面フィードバック仮説は身体部位の中でも特に顔(表情)の変化が感情の生起に影響するということです。
笑顔の場合、まず目や口の筋肉が動くことで「笑っている」状態になります。その結果、楽しいという感情が発生するということです。
顔面フィードバック仮説の根拠となる実験として、漫画雑誌を読んだ後に、その漫画の面白さを評価してもらうというものがあります。
実験参加者は普通の状態で漫画を読んでもらうのと、口にペンをくわえた状態で漫画を読んでもらうという2つ条件で実験に参加してもらいました。
口にペンをくわえるという条件は、強制的に目と口の筋肉が動き、笑顔の状態になります。
実験の結果、口にペンをくわえた状態で漫画を読んだ方が、漫画の内容をより面白いと評価するということが判明しました。
この実験結果は、顔の表情が疑似的にでも笑っている状態になることで、顔の筋肉の反応がフィードバックされて面白い・楽しいという感情が生起した可能性を示唆しています。
ただし、顔面フィードバック仮説はあくまで「仮説」であり、現段階において、絶対的な理論ではありません。
感情心理学の分野においては、笑いや笑顔と感情の関係性について検討しています。
一般論として、笑いや笑顔はポジティブな感情であり、ポジティブな表情であると考えられます。
しかし、国や文化によって実は笑いや笑顔と感情の関係性が異なるということが判明しています。
たとえば、とあるサッカーの国際試合において、日本選手が試合中にどのくらい笑顔の表情を見せたかをカウントしたところ、日本代表チームの笑顔の回数が他国のチームと比較して多いということが判明しました。
ところが、この国際試合において、試合では他国のチームに終始押されており、1勝もできずに最下位となっていました。
つまり、試合中にポジティブな場面はなく、笑顔になれるような瞬間はないはずだということです。
では、なぜ日本の選手だけがネガティブな試合展開においても笑顔が多かったのでしょうか。
そこでさらに分析をしたところ、日本人選手の笑顔の回数は多いものの、1回1回の笑顔の非常に短い継続時間であったことが分かりました。
これは、ポジティブな感情との関連による笑顔なのではなく、コミュニケーション手段として挨拶代わりの笑顔であると考えられます。
従って、笑顔がどこの国・文化でも同じ意味を持つわけではなく、それほど深い意味の無い、特別な感情が伴わない笑顔というものもあるということなのです。
社会心理学では、笑顔が他者とのコミュニケーションにおいて、どのような役割を持っているのかについて検討されています。
対人接客サービス業に従事する従業員が顧客に対して見せる笑顔に関する研究において、従業員の笑顔によって、顧客は従業員に対して親しみやすさを感じ、店舗(店内)の雰囲気をポジティブに評価し、再来店や知人への推薦などの行動が促進されるということが判明しています。
これは、笑顔によって従業員と顧客が共感的なコミュニケーションをとることができるようになり、適切なサービスの実施や好感をもたれることにつながるということです。
このように、笑いや笑顔には様々な側面があり、私たちの日常生活に心理学的な研究成果が活かされています。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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