トラウマとは心的外傷と訳され、おおまかに言えば、生命の危険を感じたり、安全が脅かされたりするような出来事の発生によって不安や恐怖、無力感、記憶障害などの状態になることです。
トラウマに関する精神疾患としては、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や急性ストレス障害(ASD)などがあり、特に心的外傷後ストレス障害(PTSD)は名前だけでも聞いたことがあるという人も多いのではないでしょうか。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断基準として、精神疾患の診断マニュアルであるDSMでは、精神的に大きなストレスを感じるような出来事を自身が体験する、もしくは直接体験はしていないが目撃するということが原因となるとされています。
さらに、最新の診断マニュアルであるDSM-5では、直接体験することと目撃することに加えて、親しい間柄の他者(家族・親友など)が強いストレスにさらされるような出来事を経験したという話を聞いた場合にも、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症することがあり、新たに診断基準に追加されています。
この「親しい間柄の他者(家族・親友など)が強いストレスにさらされるような出来事を経験したという話を聞いた」ということが心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症につながるということを示す例として、近年、日本国内で発生した事件で高校生が同じ学校の生徒を殺害したというものがあります。
この事件を心理学的な観点からトラウマについて検討すると、次のようなことが分かります。
被害者となった生徒は亡くなっているため、心的外傷後ストレス障害を発症することはありません。
また、事件の起きた現場を目撃した人物もいなかったため、目撃したことが原因で心的外傷後ストレス障害(PTSD)になる人もいません。
しかし、同じ高校に通う生徒にとっては、自分と近い存在の人のうち、一方が加害者、もう一方が被害者となっているわけであり、ニュース等で頻繁に事件の話を「聞く」ことになります。
その結果、加害者・被害者の同級生の中に、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症する人が出てしまう可能性が高まるわけです。
事件後、学校側の対応として、スクールカウンセラーを増員して生徒の心理的支援を通常以上に強化したりしています。
さて、心的外傷後ストレス障害(PTSD)という精神疾患の存在を知っている人は多く、また、何となくであれば、どのような精神疾患なのかも理解しているという人も多いのではないでしょうか。
では、実際に心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症する割合についてはどうでしょうか。
大きな災害や事件などがあると、被害者や目撃者などの多くが心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症してしまうのではないかと考えがちです。
しかし、心理学的な研究の結果、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症率はそれほど高くないということが判明しています。
日本におけるトラウマ研究においては、震災やテロ事件、交通事故、犯罪被害、DV被害など様々な出来事に対する心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症率が調査されています。
その結果、震災やテロ事件、交通事故などにおける心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症率は数%から高い場合でも10数%程度であることが判明しています。
また、これらの出来事と比較すると、犯罪被害やDV被害の方が発症率が高く、約60%程度となる場合もあることが判明しています。
多くの人が「大規模な事件や災害 = 被害者はPTSDになる」と思ってしまいがちですが、現在までの研究において、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症率はそれほど高いものではないということが分かっています。
これは、心理カウンセラーとして活動する場合にも非常に重要な研究成果であるといえるでしょう。
災害の被災地等でカウンセリング活動をする場合、PTSDへの対応だけを念頭に置いていると、それは大きな間違いであるといえます。
もちろん、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に関する正しい知見を持つことは重要ですが、人間の精神は千差万別であり、同じ出来事に対して、必ずしも同じ反応を示すとは限らないのです。
心理カウンセラーとして活躍するためには、広範かつ深淵な心理学の知識を身につけていることが重要なのです。
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