嗅覚については、主に知覚心理学の観点から、様々な研究が実施されています。
私たちには目・耳・鼻・舌・皮膚の五感によって、外界の状態を知覚し、脳で情報処理をすることで生活しています。
心理学において、主に知覚心理学で視覚や聴覚に関する研究が多いものの、嗅覚に関する研究も実施されています。
私たちの脳には、嗅脳とよばれる部分があります。
脳の前頭葉から側頭葉にかけて存在するのですが、嗅覚系は脳の中で最も古い部分であるとされており、脳は嗅脳から始まったといわれています。
そのため、動物の中でも、より進化していない原始的な動物の方が嗅脳の占める割合が多いことが判明しています。
私たちが生活している中で、様々な化合物が存在しています。
その種類は約200万以上であり、そのうち、約40万種類の化合物が有香(匂いがある)であるとされています。
この匂いを分類するという研究が実施されてきましたが、非常に難しいということが判明しています。
人間の知覚レベルで匂いの分類をしていくと、時代性や地域性、個人的体験を反映したものとなってしまうため、しっかりと決めることができません。
つまり、同じ香料であっても、AさんとBさんでは、異なる表現になってしまうわけです。
そこで、簡潔に匂いを分類するために、次元が設定されています。
まず、快 – 不快という次元があります。
一般的に花・果実は快の香りであり、腐敗・糞便は不快の香り、樹脂・薬・磯等は中間の香りであるとされています。
しかし、匂いの快 – 不快に対する感覚は個人差が大きく、呈示された匂いを「何の香りであると思ったか」で異なってしまうことが判明しています。
たとえば、この香りは「花」だと思ったら「快」となり、「薬」であると思うと「中間(快でも不快でもない)」となるわけです。
また、その匂いを何の香りであると判断するかは、生育環境などの個人の体験内容が影響するとされています。
分類が難しい匂いですが、化学者のクロッカーとヘンダーソンは4種類の原臭というものを示しています。こ
れは、クロッカー = ヘンダーソンのにおい記号法とよばれています。
クロッカーとヘンダーソンはどんな匂いも4種類の原臭の割合で決定されるとし、芳香・酸臭・焦臭・カプリル酸臭の4つであるとしています。
たとえば、バラの匂いは「芳香6」「酸臭4」「焦臭2」「カプリル酸臭3」で構成されており「6423」という数列で表すことができるというわけです。
このように、数字で匂いを表現できるということで、クロッカー = ヘンダーソンのにおい記号法は便利な方法であるものの、その再現性には疑問点も多いことも判明しています。
また、ドイツの心理学者であるヘニングは、心理学的実験に基づいて匂いを6つのグループに分類しています。
6つの内訳は、薬味臭・花香・果実香・樹脂臭・焦臭・腐敗臭であり、これを嗅覚プリズム説として確立しました。
しかし、現在では、このプリズムとして匂いを捉える考え方は否定されています。
匂いの強さ(強度)についても研究が実施されています。
日本では環境指標として、悪臭の強度を評価するために六段階評定尺度(感じない・やっと感じる・弱い・はっきり感じる・強い・極端に強い)が採用されています。
一方、欧米ではマグニチュード推定法がよく用いられ、関数で表されています。
私たちは匂いに比較的すぐに慣れてしまうということが判明しています。
嗅覚刺激が与えられてから順応するまでの時間は匂いの強度に比例することが判明しています。
嗅覚に関する病気についても研究が実施されています。
嗅覚異常には、主に嗅覚過敏性増加症、嗅覚減退症、嗅覚脱失症、嗅覚錯誤症、嗅覚幻覚という分類があります。
より具体的には、嗅覚錯誤症の場合、匂いを誤って認知するものであり、悪臭を良い匂いと感じる芳嗅症や、妊娠時によく起こる嫌いだった匂いを好きになったり、その逆が起こったりする錯嗅症などがあります。
また、嗅覚幻覚は実際に存在しない匂いを感じる症状であり、本人だけが悪臭を感じる自覚的悪嗅症、存在しない匂いを感じる幻覚症などがあります。
これらの嗅覚異常は精神疾患とも関連する場合があることが判明しています。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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