パニックと心理学には、どのような関係があるのでしょうか
【目次】
日本では365日の全てに何らかの記念日が制定されています。10月30日は「ニュースパニックデー・宇宙戦争の日」に制定されています。これは、1938年10月30日にアメリカ・CBCラジオでオーソン・ウェルズ演出のSFドラマ『宇宙戦争』が放送されたことがきっかけとなっています。このラジオ番組において、演出として「火星人が攻めてきた」という臨時ニュースを流した所、本物のニュースと勘違いされ、120万人以上が大パニックになってしまいました。この番組がきっかけで、でフィクションを放送する場合に一定の規制をかける法律が制定されたという経緯があります。
では、パニックと心理学には、どのような関係があるのでしょうか。
人は個人ではやらないようなことも、集団になるとやってしまうということがあります。いわゆる“群集心理”とは、主に社会心理学の観点から研究されています。そもそも、群集とは「不特定多数の人間が、共通の動因のもとに一時的にある場所に集まってできる未組織な集合体のこと」と定義されており、“群衆”と表記されることもあります。群集が動態的であるか受動的であるかによって、動態的な場合は暴衆(モッブ)と、受動的な場合を聴衆に分類することができます。それぞれの特徴として、暴衆は激動的な共通動因によって駆り立てられている活動的群集であり、逃走的暴衆とよばれるパニック状態の集団が形成されることもあります。従って、オーソン・ウェルズのラジオ番組を聞いて人々の中には、番組の内容がきっかけとなって、逃走的暴衆となってしまった人も多くいたと考えられます。
また、ラジオ番組の内容が人伝てに伝わる中で、パニックを引き起こしたという経緯が想定されます。これは、噂話がどのように広まっていくのかということと関係しています。
心理学では、うわさ(噂)についても様々な研究が実施されています。
心理学では、特に社会心理学の分野でうわさの研究が実施されています。社会心理学では、うわさのことを流言とよびます。流言は、その正しさを証明する証拠がないにもかかわらず“ 本当であるかのように”に伝えられていく情報のことを指します。流言は私たちが誰かに話すことで、少しずつ広まっていきますが、徐々にその内容が変化していく傾向があります。たとえば、伝言ゲームをした際、最終的に伝わってきた内容が、当初のものとは全然違うものになってしまうことがあります。流言も伝言ゲームと同じように、人づてに話が広がっていくうちに、どんどん内容が変わっていってしまうことがあるのです。また、流言の広まり方を定式化することが可能であるとされており、心理学者のオルポートは【 R = a×i 】という式に基づいて流言の広がりを考えることができるとしています。オルポートの提唱した式において、【R】は流言の広まる量を指し、情報の曖昧さである【a】と、その情報の持つ重要性である【i】の大きさに比例して、うわさは広まっていくとされています。そのため、非常に曖昧であるにもかかわらず、 重要な 情報であればあるほど、うわさはあっという間に広がっていってしまうということなのです。
うわさは定式化もできるのであれば、何とか悪影響が出ないようにコントロールできないかと考える人は多いかと思われます。しかし、うわさをコントロールすることは非常に難しいということが心理学的な研究によって判明しています。法律などによる言論統制を実施している国や地域でも、うわさの発生・拡大を制度的にコントロールすることができないという事実があります。また、一度出た根も葉もないうわさを何とか打ち消そうとすることも「うわさのコントロール」に含まれますが、これも難しいことであることが分かっています。従って、ラジオ番組から派生した噂話も瞬く間に広がり、後からフィクションであるという事実を伝えても、もはやパニックを収めることはできなかったということが考えられます。
このように、パニックという現象は主に社会心理学において研究が実施されています。また、うわさに関する心理学的な研究については、こころ検定4級の第5章で概観していますので、興味・関心がある方は、是非、勉強してみていただければと思います。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
「つぶやきコラム」は、医療・福祉・心理学・メンタルケアの通信教育スクール「TERADA医療福祉カレッジ」が運営するメディアです。
医療・福祉・心理学・メンタルケア・メンタルヘルスに興味がある、調べたいことがある、学んでみたい人のために、学びを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。