説得を学術的な観点から考えると、他者の態度を変化させるためのコミュニケーション、と定義することができます。
たとえば、何かの商品・サービスを購入する際、私たちはまず、その商品・サービスについて“知らない”というところからはじまります。
そして、知らないモノを購入することはないので、何らかの説得によって、興味・関心が無い状態から実際に「買う」という行動を起こすところまで、当初の態度を変容させていくわけです。
社会心理学では態度を変容させるようなコミュニケーションのことを、説得的コミュニケーションとよび、様々な研究が実施されています。説得的コミュニケーションには、以下のような種類があります。
まず最初に受け入れてもらえなさそうな要求を提示し、それが拒否された後に、最初の要求を撤回して、新たに小さな要求を提示するという手法。
たとえば、いきなりでは絶対に購入してもらえないであろう100万円の商品の営業をした後、10万円の商品について営業するのが、ドア・イン・ザ・フェイスの手法です。
ドア・イン・ザ・フェイスの由来は、営業マンが訪問販売の際に「家に上がらせていただいて、商品の説明をさせていただけませんか?」と言ったら大抵の人が断りますが、その後で「では、玄関でかまいませんので、お話させていただけませんでしょうか?」といえば、説得がしやすくなるというものです。
説得された側は、一旦、要求を断ってしまったという意識があるため、次の要求を受け入れやすくなり、説得に応じやすくなるわけです。
まず最初に小さな要求を提示し、それが受け入れられたら、次に少し大きな要求を提示し、ということを繰り返す手法。
たとえば、100円を貸してほしいと頼み、それが承諾されたら、やっぱり500円貸してほしいと頼む、というような流れです。
営業マンがお客様の家の玄関に「足を踏みいれた」状態で玄関先で営業をし、そこから「立ち話もなんですので、よろしければ、上がらせていただいてもよろしいでしょうか?その方が、より詳細な説明ができますので・・・。」というのが、フット・イン・ザ・ドアの名前の由来です。
説得される側は、一旦、要求を小さいながらも承諾してしまっているので、その流れで次々と出される新しい要求を承諾しやすく、説得されやすい状態になるわけです。
魅力的な条件を先に提示し、こちらの要求を承諾してもらい、その後で最初に提示した好条件を少し悪い条件に変更させるという手法。
あまりにも度が過ぎると詐欺になってしまうので注意が必要な手法ですが、最初の好条件提示の際に、お客様・ユーザーは「OK」してしまっている手前、条件が変わっても最初の態度を変えづらい、という状態になるわけです。
これは、前述の2つの手法とは逆で、態度を変化させるのではなく、一度、決定してしまった態度を簡単には変えづらいという流れを作り出すものです。
ロー・ボーリングの名前は、キャッチボールで「ちゃんと取りやすいボール(低めのボール)を投げるから」と言って、相手にキャッチボールを承諾させた上で、実際には取りづらいボールを投げるというシチュエーションに由来しています。
たとえば、最新のノートパソコンの販売営業をしていくとしましょう。
この際、説得のルートは中心ルートと周辺ルートの2つに分かれます。
中心ルートとは、商品・サービスなどの“コア”となる特徴です。最新のノートパソコンであれば、PCのスペックなどの“パソコンそのもの”の重要な要素です。
一方で、周辺ルートとは“たくさんの人が使っていて、人気がある”や“有名な芸能人も愛用している”などの、直接、商品・サービスそのものとは関係の無い要素です。
この中心ルートと周辺ルートを上手に使い分ける必要ことで、顧客ごとのニーズに合わせた説得が可能になります。
たとえば、システム・エンジニアのようにPCやITに関する専門知識を持つ人にノートパソコンを購入してもらいたいなら、周辺ルートである“沢山の人が使っている”とか“有名人も使っている”などの説得には意味がありません。
逆に、高齢者の方などのパソコンやITに詳しくない人に対して、いくら高スペックであるという面を強調しても、態度変容は起こりません。
商品・サービスに対する事前知識のある人には中心ルートで、事前知識の無い人には周辺ルートで説得することが効果的に説得をすることができます。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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