産業場面における離職や休職の問題は、従業員のメンタルへルスとの関連から多くの企業・事業所で問題となっています。
2015年12月から義務化された従業員のストレスチェックも、離職・休職を未然に防ぐことを目的の1つとしています。
離職・休職との関連で重要なキーワードとなるのが、従業員の仕事のパフォーマンスがあります。
仕事のパフォーマンスは管理職や経営層にとって興味・関心の強いキーワードであるかと思います。
産業場面において、従業員の心身の健康状態は、そのまま、仕事のパフォーマンスに反映されると考えられ、肉体労働による身体的疲労や怪我、頭脳労働・感情労働による精神的疲労やストレス、精神疾患などにより、休職・離職などの問題が発生する可能性が指摘されています。
従業員が休職・離職するということは、仕事のパフォーマンスとして“ゼロ”の状態になるということであり、業務の一部が停止ないしは停滞することを意味します。
しかし、仕事のストレス等が原因で、突然、休職・離職という状態になることは、まずないだろうと考えられます。
つまりは、休職・離職の“事前サイン”となる“パフォーマンスの低下”というもの存在するわけです。
企業・事業所にとって従業員の休職・離職は明らかな損失ですが“仕事のパフォーマンス低下”も損失といえるでしょう。
パフォーマンスの低下により、同じ仕事に対して、以前より時間を要するようになったり、同じ仕事に対して、より人数が必要になったり、ミス・エラーが増えたりなどのビジネスにおける悪影響がいくつもあることが容易に想像できるかと思います。
そこで近年注目を集めているのがプレゼンティーズムとアブセンティ―ムズという概念です。
プレゼンティーズム(Presenteeism)とは「疾病勤務」とも訳されることがあり、出勤しているものの、パフォーマンスが低下している状態を指します。
一方で、アブセンティーズム(Absenteeism)は仕事を休業している状態のことを指します(absent = 欠席・欠勤という意味で捉えると分かり易いと思います)。
一見すると「休業 = パフォーマンスが“ゼロ”」の方が大きな損失につながりそうに思えます。
しかし、大規模な調査研究の結果、プレゼンティーズムにおける経済的損失が非常に大きいことが報告されています。
つまり、休業することで起きる業務上の損失よりも、心身の不調を抱えながら勤務していることによる“パフォーマンスの悪さ”・“効率の悪さ”の方が、損失が大きいということです。
プレゼンティーズムの原因として、代表的なものに以下のようなものがあるとされています。
(1)首・肩・腰などの痛み
(2)うつ病・不安障害・睡眠障害などの精神疾患や精神症状
(3)ぜんそく等のアレルギー性疾患や症状
首・肩・腰などの痛みを原因とする場合、プレゼンティーズムはアブセンティ―ズムの約17倍もの損失額が発生しているという研究報告があります。
同様に、うつ病等の各種精神疾患(症状)の場合、プレゼンティーズムはアブセンティ―ズムの約6倍の損失額、ぜんそく等のアレルギーの場合は、プレゼンティーズムはアブセンティーズムの約19倍にも及ぶとされています。
日本において、まだプレゼンティーズムやアブセンティ―ズムは新しい概念という感覚ですが、欧米では産業場面における従業員のメンタルへルスに関する指標として確立されています。
日本においても、特にプレゼンティーズムについては、メンタルへルスの観点だけではなく、経営の観点からも重要なキーワードであるといえるのではないでしょうか。
プレゼンティーイズムなどについて研究する産業・組織心理学については、こころ検定1級(メンタルケア心理専門士)のテキストである精神予防政策学の第2章で概観していますので、ご興味・ご関心のある方は、是非、勉強してみていただければと思います。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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