精神分析および精神分析療法とは、ジグムント・フロイトの創始した理論および心理療法です。
精神分析の定義は学派や研究者によって様々です。
創始者であるジグムント・フロイトは「人間の内部に抑圧されている精神的なものを意識化する仕事」を精神分析と名づけたとしており、無意識の深層を研究する科学と定義しました。
そして、ジグムント・フロイトの実娘であるアンナ・フロイトは「イド・自我・超自我に関する3つの部分について完全な知識を得ることが精神分析の課題である」としています。
このように精神分析の定義は変化しているのは、古典的な精神分析が自我心理学へと発展していき、さらには対人関係論や対象関係論へ発展していったという経緯があるからです。
より一般的(広範な心理学的な立場)からは、精神分析とは「パーソナリティの機能および構造に関する理論であり、かつ特殊な心理療法的技法である。
また、精神分析の理論は心理学以外の他の学問への適用をも含むものである」とされています。(※この定義は国際精神分析学会第30回大会(1977)において提唱されたものです)
精神分析の誕生の背景には、創始者のジグムント・フロイトがどのような人物であるかが大きく関係しています。
フロイトは元々、非常に有能な小児神経学者・神経解剖学者であり、当時の著名な神経学者であるシャルコーやベルネームなどの下で研究に従事していました。
その研究の過程で、フロイトは神経学的には説明することができない現象が催眠によって引き起こされることに関心を持つようになりました。
特にヒステリー性の神経症状が催眠暗示によって消失するという現象から、本人の意識できない感情や欲求の存在を確信するに至ったとされています。
そのため、催眠を用いて心の深層に潜む感情や欲求などのしこりを解放する浄化法あるいはカタルシスとよばれる方法によって、精神的な問題の治療・支援が可能であると考えたのです。
しかし、多くの神経症患者は、どんな方法によっても催眠状態にはならないということが判明したことで、フロイトは催眠とは異なる新しい心理療法を考えるようになりました。
フロイトは、患者を覚醒状態において取り扱う、患者は他からの影響を断たれて寝椅子の上に心地よく仰臥させる、治療者(心理カウンセラー)自身は患者の視線を避けるために背後の椅子に腰掛ける、というシチュエーションを確立させます。
そして、患者には自然に頭に思い浮かぶことをそのまま話すように促す自由連想法を開発しました。
さらに、意識の統制が弱まる睡眠中の夢も無意識を知る素材を提供してくれるものと捉え、夢分析も重視し、これらの方法を用いて患者の治療にあたるとともに、無意識に関する独自の理論をフロイトは次々と構築していきました。
こうして確立されていったフロイトの技法において核となる理論は、次の五つが挙げられます。
1.心理的過程は意識・前意識・無意識から構成され、心的構造は自我・イド・超自我という3層で構成される
2.様々な心理的現象は、心理的な力関係によって生み出される
3.性的欲動であるリビドーの存在を仮定し、その充当や対象への分配等からの不適応や防衛機制(適応機制)を考える
4.自我・イド・超自我の相互の関係やエネルギー分配の状態を幼児から成人へという発達の中で捉え、その逆方向を退行と考える
5.対人関係や社会への適応という視点から心理的現象を考えるというものです。その後、精神分析の研究者たちは独自の理論を展開しています。
たとえば、ユングは独自の局所・構造論を展開して集合的無意識と自己の働きについて、アドラーは性欲動よりも力への意志や優越感といった社会的欲求について、自我心理学は自我の主体的な役割について、新フロイト派は社会的・文化的影響という対人関係について、それぞれ同じ精神分析という文脈の中で異なる部分を強調しているのです。
2018年現在、精神分析は認知心理学や神経心理学などの、より科学的な分野によって、再構成・再編成されようとしています。
過去の記憶や無意識などは、認知心理学・神経科学でも取り扱われる分野であり、これらの分野が心理カウンセリングにも応用されているのです。
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