コラム

心理学誕生の背景

2018.6.7 心理
  • 産業・組織心理学
  • 心理カウンセラー

 

 

科学的な心理学の誕生は、心理学者のヴントがドイツのライプツィヒ大学に心理学実験室を創設したことがきっかけであるとされています。
これは1879年の出来事なので、2018年現在は、心理学の誕生から約140年ということになります。
では、1879年より以前には、人間の「心」について、人々はどのように捉えていたのでしょうか。

 

 

心理学を語る上で、哲学は非常に重要なものとなります。
ヴントが創設した心理学実験室はライプツィヒ大学の哲学部の中に作られています。
そして、1800年代後半から1900年代初頭の心理学の黎明期に活躍した心理学者の多くが、大学で哲学を専攻していたり、哲学に関する論文を執筆していたりします。

 

たとえば、記憶の研究で有名なエビングハウスはドイツのボン大学で「無意識の哲学」に関する論文で学位を取得しています。

 

感情と行動(反応)に関する初期の理論であるジェームズ・ランゲ説を提唱したジェームズは心理学者であると同時に哲学者でもあり、ハーバード大学で哲学の講義を担当しています。

ウェクスラー式知能検査の開発者であるルーマニア生まれのウェクスラーは、ニューヨーク大学・コロンビア大学・ロンドン大学・パリ大学などで、生物学・生理学・心理学と合わせて哲学を学んでいます。

 

アカデミックな学派として心理学に多大な影響を及ぼしたシカゴ学派を形成し、心理的過程の機能に着目し、機能心理学を提唱したデューイは、元々、アメリカで哲学者として活動していました。

 

発達心理学者のピアジェも、当初は哲学的な観点から人間をはじめとする生物の認識という機能について検討していましたが、哲学的なアプローチに限界を感じ、心理学へとアプローチの方法を変更しています。

 

 

このように、哲学を基盤として心理学へと「流入」していった専門家は多く存在しています。
これは、哲学が様々な概念について検討したり、定義したりする学問領域であるからです。

 

「自由とは何か?」・「楽しい(快)とは何か?」という問いに対して、定義づけをするのが哲学です。
そして、哲学が定義づけをする分野は必ず人間が中心となります。私たち人間が、どう考え、どう捉えるのかということを明らかにするのが哲学的なアプローチなのです。

 

しかし、純粋に哲学的なアプローチでは、実験や調査などのように「複数の人を対象としたデータの取得」という方法を取らないため、論理的に考察して結論を出すだけになってしまいがちです。
そこで、条件統制をした実験室における実験やアンケート調査などの手法で「多くの人が実際に何を考え、何を思っているのか」をデータとして取得、分析するというのが、心理学の伝統的なやり方となっているのです。

 

 

哲学と同様に、心理学の誕生に大きな影響を及ぼしたものとして、経済学があります。
2017年度のノーベル経済学賞は経済心理学(行動経済学)の専門家であるリチャード・セイラーが受賞しています。

 

経済学には意思決定や利得と損失に対する価値観、評価や判断などのような、人間の心理的な要素が多分に含まれています。
しかし、従来の経済学では、まず数式化して検討するということをしてきました。
数式に含まれるのは、価格や量、確率などです。
そして、人間の行動や意思決定を説明することができる複雑な数式がいくつも作られました。

 

しかし、一見すると完璧なはずの数式が導き出した結果の通りに人間が行動しないことも多く見受けられ、経済的活動を予測することができないケースが沢山ありました。
それは、数式の中に「人間の心の要素」が考慮されていなかったからです。

 

従来の経済学の大前提として「人間は合理的に判断し、その判断に基づいて行動するはずだ」という考えがありました。
これは、経済活動に関連する数式の結果である数値の大小が、そのまま人間の行動を左右するということです。
しかし、人間の経済活動をより正確に予測するためには、その数式の中に「人間の心の動き」を数値化して代入することが必要であるということが判明したのです。

 

 

このように、論理的な考察だけではなく、直接・間接問わず、実際に人間の知覚・認知・感情・行動・態度などをデータとして取得することで、哲学とは異なる心理学のアプローチが確立されました。
加えて、数学的な計算に「心的過程」を含めることで、単純な経済学とは異なる心理学としてのアプローチが確立されました。

 

現在の心理学の誕生には、哲学と経済学がかかわりを持っていることが、お判りいただけたかと思います。
その上で、逆に心理学で判明した知見が哲学や経済学に「逆輸入」されて、さらなる発展を遂げていっています。

 

 

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この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部

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