私たちが小学校、中学校、高校、大学で何かを学ぶ際にも、心理学の知見が活かされています。特に小中高の場合は、何をどのタイミングで教えるのかが非常に重要であり、カリキュラム作成は科学的根拠に基づいて行う必要があります。
学校は先生が授業をして、何かを教える場であり、児童・生徒が勝手に教科書を読んで、自分のペースで進めるというものではありません。しかし、逆にどれだけ先生が懇切丁寧に教授・解説しても、まったく理解できない児童・生徒が大半であれば、それはまだこの年齢で理解するのが難しすぎる内容である、ということになります。
ただし、最終的には成績を判定する必要がありますので、全員100点、全員5段階評価で5というような状態でも問題があります。このように、学校教育における教授のタイミングは、しっかりとバランスを見る必要があるのです。
何歳くらいの子どもに何を教えるのがベストなのかという知見は、発達心理学と教育心理学の観点から研究されています。心理学者のヴィゴツキーは、子どもの知的発達の水準を2つに分けて考えることを提唱しました。1つ目は、自力で問題解決できる発達水準であり、もう1つは他者からの援助や協同によって達成が可能になる水準です。
ヴィゴツキーは、この2つの水準の「ズレ」の範囲を発達の最近接領域と命名しました。そして、適切な教育とは、発達の最近接領域に適合したものである必要があり、また、そうした潜在的な可能性の領域をつくり出すものでもなければならないとしています。
つまり、小学校1年生が学校で習う内容は「誰かに教わらなくても自力で全部理解できる内容」よりも難しく(自力では理解できない問題や自力で理解できない子も存在する)、その上で「教師からの教授(授業)やサポートが、あればほとんどの子が理解できる内容」(成績の差はできるが、それは真面目に授業を受けているかどうかが基準となる)という「領域」でカリキュラムを作成する必要があるわけなのです。
本コラムでも「カリキュラム」という言葉を多用していますが、実はカリキュラムには顕在カリキュラムと潜在カリキュラムという2つの種類があります。顕在カリキュラムとは、教科書や宿題、テストなどのように「目に見える形」で存在しているものです。
教科書が全部で100ページあり、少なくとも夏休み前までに30ページ分を教える必要がある、などように、スケジュールを数値化・視覚化することができるのが顕在カリキュラムです。一方で、潜在カリキュラムは、別名「かくれたカリキュラム」とよばれ、教科書などの顕在カリキュラム以外のモノで、児童・生徒の成長に及ぼす社会・文化的条件の全てを指します。
より具体的には、教師や両親の児童・生徒観、発達観、教育観、親子関係や教師 = 生徒関係のあり方、学校・家庭・コミュニティの状態や関わり方などが典型的な例です。また、両親のわが子に対する期待感は、両親本人が意識しているか、無意識的なのかにかかわらず、子どもに対する養育・教育・躾のあり方を大きく左右するものとなっています。
子どもはその両親からの期待に応えたり、逆に反抗したりしながら、成長・発達をしていきます。これは、学校でも同様で、教師が意識的にしろ、無意識的にしろ、特定の児童・生徒に対して、強い期待を持ったり、逆に非常に低い期待感を抱いていたりすると、それは児童・生徒の学校生活や学業成績に大きく影響します。
このように、子どもの成長・発達と教育には、かくれたカリキュラムの影響が非常に大きいということが判明しています。
学校の授業などの教育に関する心理学については、こころ検定3級の第3章で概観していますので、興味・関心のある方は、是非、勉強してみていただければと思います。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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