心理学には様々な分野がありますが、基本的には「一個人の心の過程」を対象としています。
しかし、私たちは周囲の他者から多くの影響を受けています。
周囲の他者というものをより大きな枠組で捉えると、集団や社会ということになります。
このように、一個人ではなく、それを取り巻く周囲の集団や社会を対象とするのが社会心理学という分野です。
日本には、日本社会心理学会という学術団体があり、精力的に社会心理学の研究が実施されています。そして、2017年は10月に日本社会心理学会の年次大会が開催されます。
社会心理学では、個人が集団や社会からどのような影響を受けるのかを検討するものと、前述のように集団や社会などの「複数の人間」の心理について検討するものの、大きく2つに分かれます。
集団や社会が個人の心理過程に及ぼす影響に関しては、自己・態度と態度変容・対人認知などがあります。
自己とは、「自分とは何か?」ということですが、この自己も「他者との関係の中での自分」というものであり、本当に自分ただ一人では自己というものを確立できないわけです。
態度や態度変容とは、他者とのかかわり方に関するものであり、「人によって態度を変える」などがそれに当たります。
対人認知とは、他者に対する認識のことであり、これも他者との関係の中で成立するものです。
また、他者との関係においては、攻撃・援助・説得・対人魅力・対人コミュニケーション・対人関係などもあります。
攻撃も援助も「攻撃する相手」や「助ける相手」がいなければ成立しません。
同様に説得も「説得する相手」がいなければ成立しません。対人魅力や対人関係、対人コミュニケーションも必ず誰か「相手」がいるわけです。
これら全ての事柄が他者および社会との関係において初めて発生するものであり、社会心理学の研究対象となります。
さらに、集団の心理的過程に関しては、集団の構造や機能・社会的勢力・リーダーシップ、偏見・差別・協力と競争・取引・交渉・流言(うわさ)の普及過程・消費や購買行動などが挙げられます。
これらの、個人が集団から影響を受ける部分もありますが、人が複数になった時にどのような心理的な変化が起きるのかを検討するものが多くあります。
そして、社会心理学は「2人以上の人」を「社会」として捉えるので、実に様々な領域に及ぶものとなっています。たとえば、環境や法律・裁判、健康、教育、臨床・カウンセリングなどにおいても、社会心理学の研究対象となっています。
社会心理学では、実験や調査による研究が実施されていますが、特徴的な手法として、実験参加者や調査協力者を「騙す」という方法があります。
「騙す」と聞くと、とても悪いことのように思われますが、これは研究の過程において必要なことなのです。
たとえば、同調行動に関する実験において、本物の実験参加者は1名のみで、あとの4名はいわゆる「サクラ」であり、実験の内容を知っている実験の“協力者”として、実験が実施されます。
しかし、この「サクラ」という設定を本物の実験参加者は知らされずに実験に参加することになります。
社会心理学の実験では、このような「騙し」が実施されることがありますが、倫理的な配慮から、事前に十分な検討を実施します。
また、実験終了後に「騙しのからくり」を実験参加者に必ず説明します。なぜ、このような「騙し」という手法がとられるかというと、社会的な状況を再現する必要があるからです。
同調行動の場合、「人間は周りの意見や行動に簡単に左右されてしまう」ということを検証することが目的です。そ
のため、「一人を除いて、周りの人間の意見や行動が一致している」という状況を作り出す必要があるのです。
そのため、本人の知らないところで“裏では全員の意見・態度が一致している”という設定を作り、それをあえて隠しておくのです。
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このように社会心理学では、様々な事柄について個人を超えて、集団や社会という観点から検討しています。そして、社会心理学の研究成果が法律や制度、都市計画などに反映されています。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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