日本と同じアジア圏でも、他のアジア諸国と日本では、心理的にどのような違いがあるのでしょうか。
心理学には、文化心理学という分野があります。
心理学的には、人間と環境との関係の中で文化を捉えようとすることが多いです。
たとえば、学習心理学・行動分析学の専門家であるスキナーは「行動を引き起こし、維持する社会的強化の随伴性」が文化であると定義しています。
より一般的には、文化人類学(人類学)と心理学が融合して誕生したのが文化心理学です。
文化心理学では、人間個人の認知・*感情・動機づけなどの心理過程が、その個人が生活する文化で受け入れられている慣習や意味構造によって形成され、逆にそうした心理過程が文化慣習・意味構造を維持・変容させるという両者の相互影響過程を研究対象としています。
そして、文化心理学は、異なる文化における人間行動を比較検討する中から、文化と心理過程の相互関係を実証的に理解することを目的としています。
特にこの分野は異文化心理学とよばれています。
異文化心理学は、交差文化心理学・通文化心理学・比較文化心理学などともよばれるもので、人間の認知や行動、感情の普遍性と文化的特殊性を明らかにし、さらに文化間の相互作用を心理学的観点から探る領域のことを指します。
文化心理学者のベリーらによると、文化と行動の因果関係を明らかにし、心理学的知識の普遍化の可能性に焦点を当て、文化的経験を見極め、文化変化と個人の行動との関係について問題提起する研究領域とされています。
この異文化心理学の中で、東南アジア文化圏に関する研究が実施されています。
たとえば、お小遣いという文化があります。これは、子どもが親などの大人から少額のお金をもらうことを指します。
ここで重要となってくるのは、もらったお小遣いは子どもが自由に使っても良いのかということです。
文化としては、自分の所有物と他者の所有物の境界線はどこなのか、自分の所有物はどこまで自分で自由に使用できるのか、という考え方が国や地域によって異なるということを示しています。
では、お小遣いについて、日本の子どもはどのように捉えているのでしょうか。
一般的に子どもに聞いてみると「お母さんからお小遣いをもらったけど、お母さんが無駄遣いしちゃダメっていうから、お菓子を買っちゃダメなんだ」と答える子どもは多いのではないでしょうか。
もちろん、全ての子どもがそう答えるわけではありませんが、前述のように答える日本の子どもは多いのではないでしょうか。
そして、この子どもの回答には「たとえ、自分の所有物であったとしても、それを自分が自由に使うことはできない」という認知があると考えられます。
そして、多くの子どもがこのようにお小遣いを認知しているということは、それは日本の文化において「お小遣い」というものが、このように認知されているということを示しています。
しかし、日本の子どもはもらったお小遣いを「親のもの」という認知はしていないことが判明しています。
あくまで「所有権は自分にあるが、自分は子どもだから、親の許可が必要なことが多い」という認識の上で、お小遣いを認知しているのです。
一方で、中国や韓国では、お小遣いに関する文化的な考え方が少し異なります。
中国や韓国の子どもたちの多くが、お小遣いやお年玉としてもらった「自分の所有物であるお金」を高校や大学などの学費として、子ども自身が使うという傾向が多く認められます。
中国や韓国では、親と子どもというもの経済的な基盤が非常に密接に認知されており、「これはお小遣いとしてあげたものだから子どもの所有物」という感覚は、日本ほどは強くありません。
むしろ、中国や韓国の子どもは、お小遣いは誰の所有物なのかと質問すると「親の所有物」と答える子どもが少なくないという調査結果も出ています。
お小遣いはあくまで1つの例ですが、異なる文化圏において同じ事柄でも心理的に異なる捉え方をしているということがよく分かる内容だったかと思います。
このように、文化心理学・異文化心理学は人間の多様性を認めていくうえでも、心理学的に非常に重要な分野であると考えることができます。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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