コラム

自殺と心理学の関係(1)

2022.9.1

自殺について、心理学や精神医学では、どのように定義し、研究をしているのでしょうか。 

 

 

心理学や精神医学では、自殺に関する科学的な研究が古くから実施されています。

研究の目的は様々ですが、一番の目的は自殺の予防・防止であるといえるでしょう。
また、心理学・精神医学・社会学などの横断的な学問領域として、自殺学という分野も確立されています。
では、このような学問的な領域において、自殺とはどのように定義されているのでしょうか。

■自殺 

自殺とは一般的には、自ら命を絶つ、自らを殺す行為というイメージが強いかと思います。
フランスの社会学者であるエミール・デュルケムは「当事者自身によって積極的ないしは消極的に、そして、直接的ないしは間接的に発生した死」を全て自殺と定義しています

 

一方で、アメリカの心理学者であるエドウィン・シュナイドマン当事者が死ぬことが自分の直面している苦痛から逃れる最善の方法であると認識しているかどうか」が死を自殺と認定するかどうかにおいて重要であるとしています。

 

このように、自殺の科学的な定義において重要となるのは当事者の意思であると考えられます。
デュルケムの定義においては、当事者の積極性・消極性のどちらが強くても、結果として死が直接的であれ間接的であれ、当事者自身の意思が少しでも介在していれば、それは自殺であるとされています。

シュナイドマンも当事者の認識という意思決定のプロセスを重視しており、やはり、当事者の意思が重要な要素となっています。
自殺の研究が心理学と密接にかかわっているのは、この意思というものが人間の重要な認知機能であり、心理的なプロセスとしてなくてはならないものであるからです。

 

たとえば、自殺の原因として挙げられる代表的なものにうつ病などの精神疾患、経済的困窮、社会的・対人的なサポートの希薄さ、加齢喪失体験薬物乱用、いじめや虐待の被害、家族や友人などの親密な他者の自殺などが挙げられます。こ
れらはいずれも、自殺の「きっかけ」となるものではありますが、こういった状況・経験・体験をどのように認知するのか、そして、最終的に「死を選択する」という意思決定をするのが誰なのかといと、それは全て当事者本人なのです。
そのため、自殺の予防・防止という観点からも、死に対する認知的なプロセスが非常に重要なものとなっています。
 

 

一般的に「自殺」という1つの言葉でまとめられてしまうことが多いですが、自殺にはいくつかの分類があります。 

 

① 自殺念慮者:自殺をしようと考えている状態の人
② 自殺企図者:自殺を実行した人(※以下の2つの下位区分がある)

・自殺既遂者:自殺企図に成功した人
・自殺未遂者:自殺企図に失敗し、命を失わなかった人

■なぜ自殺するのか? 

日本の自殺者数は2万人~3万人前後を推移しているという統計データ出ており、日本人の死因として、自殺は常に上位に位置しています。
一方で、前述のような自殺の詳細な区分で見ていくと、自殺未遂者は自殺既遂者の数倍は存在し、自殺念慮者にいたっては、さらにその数倍は存在しているとされています。
 

 

自殺学などの自殺に関する科学的研究において「なぜ、自殺しようと思ったのか?」ということを確認するためには、当事者に質問する以外に妥当性の高い方法がありません。
しかし、自殺既遂者には確認することができないため、自殺未遂者に対して確認をする必要があります。
そこで重要となっているのが、医療機関に設立されている救急救命センターです

 

日本では、1978年から救急医療施設の構想が進められ、全国各地にセンターが設置されています。
自殺未遂者は救急搬送されることが多いため、救急救命センターで未遂直後に治療を受けるケースが大半を占めています。
そのため、未遂直後に当事者に対して、自殺の理由や方法などを確認するということが可能となり、これが自殺に至る認知や意思決定のプロセスの解明に役立っているという側面があります。
 

 

このように、自殺という事象にも科学的な根拠に基づいた研究が実施されて、学問領域としても確立されているということが分かったかと思います。
次のコラムでは、さらに自殺学に関する内容について解説していきたいと思います。
 

 

 

著者・編集者プロフィール

この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部 「つぶやきコラム」は、医療・福祉・心理学・メンタルケアの通信教育スクール「TERADA医療福祉カレッジ」が運営するメディアです。 医療・福祉・心理学・メンタルケア・メンタルヘルスに興味がある、調べたいことがある、学んでみたい人のために、学びを考えるうえで役立つ情報をお届けしています。

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