心理学では近年、神経心理学という分野が注目を集めており、日本神経科学会でも盛んに研究発表が実施されています。
現在、神経心理学は神経学、精神医学、生理学、解剖学、心理学などが関連する非常に学際的な領域となっています。
では、より具体的に神経心理学とは、どのような学問分野なのでしょうか。
神経心理学とは、そもそも脳の損傷によって生じる高次機能障害について、様々な検査や実験的手法を通じて正確に把握することを目的として確立されていったという背景があります。
神経心理学が確立された当初、まだMRIやCTスキャンなどの技術がなかったため、事故などにより脳を損傷した患者を調べることで、脳の損傷がどの部位であるのかということと、言語・思考・意志・意図・記憶などの機能のうち、いずれの機能に障害が発生したのかを確認していく中で、脳と神経の構造を解明していくという手法が主流となっていました。
たとえば、事故で脳の前頭葉を損傷した結果、事故前とは意思決定や計画性に関する能力が著しく低下したという事例があったとしましょう。
これは、逆説的にそれまで意思決定や計画性に支障がなかったのは、前頭葉が問題なく機能していたからだと考えることができるわけです。
これが、MRIやCTスキャンなどのツールが存在する時代であれば、健康な人に計画や意思決定をさせている際の脳神経の活動を測定し、脳のどこの部位が活性化しているのかを確認すればいいわけですが、神経心理学の誕生は1800年代の後半だったため、事故などによる損傷ありきの研究となっていたのです。
このような経緯で研究が開始された神経心理学はフランスのブローカーによる失語症の研究などから徐々に発展していきました。
その後、第一次世界大戦、第二次世界大戦を経て、戦時下で頭部損傷を負う兵士が急増し、そういった兵士が戦後にリハビリが必要となりました。
兵士のリハビリは各国が総力を挙げて取り組む必要性があり、その過程で心理学者や言語病理学者など、医学以外の領域の専門家が研究に参加するようになました。
このころから、神経心理学という用語が次第に定着するようになったとされています。
神経心理学が一個の独立した専門領域として多くの科学者等の専門家に認識されるようになったのは、1963年に学術雑誌である「ニューロサイコロジア(Neuropsychologia)」が創刊されたことが大きなきっかけとなったとされています。
また翌年の1964年には「コーテックス(Cortex:脳の皮質という意味)」という学術雑誌も創刊されたこともあり、神経心理学に関する研究成果の蓄積が進んでいきました。
そして、1960年代後半からスペリーらによって分離脳研究が実施され、世界的に左脳・右脳のブームを巻き起こり、神経心理学の発展に大きく貢献しました。
その後、1970年代後半から80年代にかけてCTスキャンやMRIが発明されたことで、神経心理学の研究はより一層の発展を見せましたが、一方で脳神経には個人差や性差があるということが判明し、それまでの理論が見直されることにもなりました。
現在では、脳神経の活動を測定する手法はより精度が向上し、身体をある程度活発に動かしている状態でも、神経活動が記録できるようになっています。
そのため、神経心理学の研究領域は脳神経の損傷による問題だけではなく、より高次な意思決定のメカニズムについても広がりを見せています。
最近では株式投資や金融証券の売買などの際に、脳のどの部位が活性化しているのかや、抑うつや不安などの感情の生起が神経活動にどのような影響を及ぼすのかなどを検討する神経経済学という分野も確立されています。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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