心理学は1個人の心理的過程のみならず、2人以上の集団、チーム、組織、企業などについても、社会心理学や産業・組織心理学などで研究が実施されています。
そして、さらに多くの人間が関わる、ある種の概念としての「文化」についても、心理学では研究が実施されています。
心理学において、文化とは人間に影響を与える独立変数の1つであるというのが、多くの心理学者の共通する見解です。
そして、個人と環境との関係の中において、文化というものが位置付けられているとしています。
たとえば、学習心理学の専門家であり、行動主義によって心理学を定義したスキナーは「行動を引き起こし、維持する社会的強化の随伴性」が文化であると定義しています。
これは、文化という概念的で非常に広範な影響力を持つ者であっても、基本的には「刺激と反応」の関係性で成り立っているということを意味しています。
文化は国や地域によっても異なりますが、特定の文化圏において「良し」とされる事柄が、他の文化圏では、全く別の評価をされるということがあります。
では、この「良し」とされるという事柄が、特定の文化圏でのみ、なぜ「良い」とされるのかというと、その文化圏において、特定の行動が褒められたり、評価されたりするからです。
これはパブロフの犬におけるエサやメトロノームの音と同様の強化子であり、その存在が特定の行動を強化し、出現頻度を増加・維持させます。
特定の文化圏でこれが全体的に繰り返されていくことで、刺激と反応、そして行動の生起という随伴性を形成していくというわけです。
スキナーと同じ学習心理学の専門家である佐藤方哉は、このような「たくさんの随伴性の集まり」が文化であるとしています。
また、心理学者のトリアンディスは、文化を以下のように大きく2つに分類しています。
(1)物質文化:道路・建物・道具のようなもの
(2)主観文化:人間によって作られたものに対する主観的反応(価値・態度・役割)
このうち、主観文化とは、言い換えれば「社会的環境に対する、ある文化集団特有の知覚の仕方」であるということになります。
つまり、同じ建物のデザインを見ても、それをどのように捉えるのかは文化圏によって異なるということです。
そのため、物質文化としては同じ道路・建物・道具だったとしても、それをどのように知覚・認知するのかによって、主観文化は異なる場合があるのです。
また、発達心理学的な観点から文化を捉えるケースとして、心理学者の渡辺文夫は、文化の特質を「精神発達過程の特定の時期に、環境との相互作用により、可塑的に形成され、その後の行動・知覚・*認知・動機・情動・態度などを、基本的に方向付ける中核的な反応の型で、ある特定の集団の成員に有意性を持って共通に見られるもの」と定義しています。
つまり、文化は遺伝と環境の相互作用で形成されるものの、環境要因が影響を及ぼさなければ「形作られない」こともあるということになります。
たとえば、日本人同士の父母の間に生まれたものの、出征直後から20歳までアメリカで生活していたという人がいるとしましょう。
この場合、遺伝的な要因は日本人としての文化的背景を形成する状況が整っていますが、環境要因として日本では生活をしていないので、「日本的な文化」が発達過程で獲得されることがない、ということになります。
逆に出生直後から20年以上、アメリカで生活をしているとなると、アメリカの文化を可塑的に身に着けている可能性が高いわけです。
さらに、トリアンディスは文化についての様々な観点から検討した後に、次のように文化を定義しています。
「文化は、人間が作った客観的・主観的要素のまとまりである。それは、過去において、生存の可能性を高め、生態学的に生態系の中で占める地位において、人を充足させ、そのようにして、同じ時間と場とに生活し、共通の1つの言語を持つがために、お互いに理解し合える人々の間で共有されてきたものである」。
この定義には、文化に進化論的な観点を加え、祖先が生き残り、子孫を残す上で必要不可欠であった要素が、時代を経て最終的に「文化」と呼ばれるまでになったということなのです。
このように、心理学では文化を多角的に捉えながら、基礎的な心理学である知覚・認知・行動・発達などの観点から理解しているのです。
この記事を執筆・編集したのはTERADA医療福祉カレッジ編集部
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